2025年12月6日(土)

21世紀の安全保障論

2025年6月9日

 このため中国は、自らが主導する国際調停院を発足させ、新興・途上国の「グローバル・サウス」を取り込んだ上で、大国となった中国が国家間紛争で影響力を行使しようと企図しているのは間違いない。もちろん日米など先進7カ国(G7)や欧州の主要国は設立に同調していないが、中国は国際調停院を舞台に、自らの主張を発信する世論戦を強化し、中国による新たな国際秩序の形成に挑んでくることは確実だろう。

中国に先んじて世論戦を挑め

 執拗かつ周到な準備で現状変更を企てる中国に対し、日本が取るべき対応は、フィリピンが国際仲裁裁判所に申し立てたように、尖閣諸島を巡って中国が主張する歴史的根拠を否定する資料や、海警船の尖閣領海内での活動、排他的経済水域(EEZ)内における調査活動など国連海洋法条約に違反する中国の行為を示す資料を整え、早急に仲裁裁判所に提訴することだ。

 仲裁裁判所は主権や領有権の問題について管轄権を持たないと解釈されているが、同裁判所が中国の主張する「九段線」の法的・歴史的根拠を否定したように、同諸島を巡っても中国の主張根拠を否定し、同条約に違反する中国の様々な活動を指弾することは可能なはずだ。何よりも、政府は同裁判所への資料提出や審議を通じて、国際社会に向けて日本の主張の正当性を訴える世論戦の場として活用できるメリットがある。

これでは中国に舐められるだけ

 領空侵犯や国際調停院設立への日本の反発を見透かしたように、中国は署名式と同じ5月30日、日本産水産物の輸入再開に向けた手続きを始めることで日本政府と合意した。まさにアメとムチだが、中国が科学的根拠のない禁輸を見直すのは当然だが、福島など10都県の水産物は従来通り規制したままという不当な内容だ。なぜ政府は「この内容では合意できない」と突き返さないのか。

 その直前の5月28日には、沖縄・与那国島沖のEEZに中国が勝手に設置した観測用ブイが撤去されているのが確認された。中国は「メンテナンス」などと説明、再び設置する恐れがある以上、政府は「今後、EEZ内での設置を確認すれば、即刻撤去する」と警告すべきではないのか。こうした政府の対応では、中国に舐められるだけだ。

 5月は中国の硬軟織り交ぜた揺さぶりが本格化し始めたと言っていい。政府はこれまで、尖閣諸島について「領土問題は一切存在しない」との立場から、常態化する海警船による領海侵入や様々な違法行為に対し、外交ルートを通じ口頭での抗議にとどめてきた。しかし、それでは手遅れになることを自覚し、まずは6月22日が会期末の今国会の会期中にも、海上保安庁法の改正や国際法廷への付託を決定するなど国家としての姿勢を明確に示す必要がある。

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