2025年7月16日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年6月17日

 エコノミスト誌5月24日号の社説が、「ベトナムが先進国入りを果たすためには、貿易戦争の中で、改革を進める必要がある。もしトー・ラム書記長の改革が成功すれば、人口1億のベトナムが先進国入りし、もうひとつのアジアの成長エンジンが誕生し、ベトナムが中国の勢力圏に入る可能性は低くなる」と指摘している。要旨は次の通り。

(Andy Soloman/gettyimages)

 深刻な貧困が解消し、対米輸出国トップ10に入り、アップルやサムスンのような企業の製造拠点となっている現状は、ベトナムの勝利を祝う瞬間かもしれない。しかし、ベトナムには問題が山積している。

 問題を解決し、ベトナムが先進国の仲間入りを果たすには、第二の奇跡を必要としている。責任者は、改革者にならなければならない。

 その人物、トー・ラムは、昨年、権力闘争の末に、公安大臣からベトナム共産党のボスに浮上した。彼は自国の従来のやり方が機能不全の瀬戸際にあることを認識している。

 ベトナム方式は1980年代のドイモイ改革で練り上げられたもので、貿易と民間企業に経済を開放した。これに加え、安価な労働力と政治的安定によって、ベトナムは中国に代わる選択肢となった。

 ベトナムは2300億ドルの多国籍投資を誘致し、電子製品組立の拠点となった。過去10年間、ベトナムはインドや中国を上回る年率6%の成長を遂げた。

 差し迫った問題は貿易戦争だ。ベトナムは輸出が得意で、今や対米貿易黒字は第5位だ。トランプ大統領による関税46%課税という脅しは、交渉によって引き下げることができるかもしれない。

 しかし、関税率が引き下げられたとしても、ベトナムにとって悪夢は終わらない。賃金がインド、インドネシアよりも上昇しており、ベトナムはすでに競争力を失っている。

 もし米国が取引の代償として、中国からの輸入品、技術、資本を一掃するよう圧力をかければ、ベトナムは微妙な地政学的バランスを崩すことになる。多くのアジア諸国と同様に、ベトナムは、「信頼できない米国」と「いじめっ子の中国」との間でリスクヘッジしたいのだ。

 ラム氏は「燃え盛る炉」と呼ばれる汚職捜査を指揮し、その名を知らしめた。今、彼はベトナムの古い経済モデルを焼き払わなければならない。

 ベトナムでは、一握りの政治的つながりのある財閥が、不動産や銀行などの産業を支配している。国際競争力のある企業はまだ存在しない。国有企業がエネルギーから電気通信に至るまで重要産業を牛耳っている。


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