2025年12月5日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年6月17日

 より繁栄するために、ラム氏は中小企業や新規参入企業のための土俵を整える必要がある。つまり、許認可制度を見直し、銀行業界に揺さぶりをかけることで、小企業への信用供与を可能にすることである。

 重要なことは、乏しい資源を独占する強力な既得権益に立ち向かうことだ。手始めとして、オリガルヒに国際競争をさせるか国の支援をやめるべきだ。彼らはしばしば、国家機関や共産党内の取り巻きや仲間に守られている。

 心強いことに、ラム氏はすでに10万人の公務員を解雇するなど、国家の合理化に着手している。彼はまた、地方が党内の強力な派閥を後援しているベトナムで、地方省の数を半減させようとしている。

 また、いくつかの省庁を廃止しようとしている。これらはすべて官僚機構の近代化につながるが、敵を作る方法でもある。

 もしラム氏が失敗すれば、ベトナムは時を逃した低い付加価値の生産センターとして泥沼にはまるだろう。しかし、もしラム氏が成功すれば、第二のドイモイによって人口1億のベトナムが先進国入りし、もうひとつのアジアの成長エンジンが誕生、ベトナムが中国の勢力圏に入る可能性は低くなる。

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汚職撲滅の弊害

 この社説は、歴史的変化の重要局面にあるベトナムが置かれている状況、なすべきことを的確に指摘している。

 昨年8月、トー・ラム氏は越共産党書記長に就任したが、2045年の先進国入りを目標に、前書記長時代から取り組んできた(1)汚職撲滅キャンペーンに加え、(2)国および地方行政レベルの組織改革、インフラ整備、国民の意識改革等に取り組んでいる。(3)また、巨額な対米貿易黒字の削減に向け、米側と行っている交渉は最優先事項である。

 汚職撲滅キャンペーンに関し、トー・ラム氏は、チョン前書記長の下、公安大臣として取り組んできた。キャンペーンの結果、11年から24年夏までの間に、約20万人が処分され、24年1~6月の間には党員1.1万人が処分対象となった。特にチョン前書記長の逝去(24年7月)前の1年半に、政治局員18人中7人が汚職防止規定違反等を根拠に罷免されたが、大きな政治的混乱はなかった。

 チョン氏の死後も、汚職で処分されるケース(最近、いくつかの海外労働者送り出し機関が規定を超えた手数料を不法に徴取していたとして摘発等)は散見されるが、キャンペーンの大きな山は越えた感がある。このキャンペーンの背景には、先進国入りするためには、賄賂ではなく、法令に基づいたビジネスの普及、国民の「意識改革」が不可欠との認識がある。


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