2025年12月5日(金)

Wedge REPORT

2025年6月13日

自前の軍需産業を築きつつあるウクライナ

――停戦協議が再開されたが、見通しはどうか。

「(22年の)侵攻直後に、ベラルーシ、トルコの仲介で行われたが、キーウ攻防戦のウクライナ勝利、ブチャでの殺戮などがあり頓挫した。人質、拉致された子供の解放などの交渉は時々行われていた。

 今回、交渉再開にカジを切ったのはウクライナからだった。完全に(ロシアを)押し戻すことは困難と考えたからだ。全面的、無条件、即時の停戦が条件で、アメリカ、欧州が支持している。

 実現した場合の次のステップは和平協議だが、ロシアはそれを有利に進めるために、停戦にあれこれ条件をつけている。今のままでは進まないだろう。アメリカ、欧州は経済制裁強化など圧力かけるべきだ」

――和平交渉の展望は。

「停戦協議すら難しいのだから、和平交渉を見通すのは時期尚早だ。ウクライナ、ロシアだけでなく欧州ひいては国際社会全体の安全保障に資するものでなければならない。ウクライナが望まない和平条件を押しつけるのではなく、実現した後、欧州やアジアで侵略が起きないような和平であるべきだ」

――ウクライナ、ロシアいずれも戦争を継続する能力はあるのか。

「ある。ロシアは依然としてエネルギーの輸出で収入があるし、北朝鮮から武器や弾薬の供与を受けている。北朝鮮の支援がなければ地上戦は困難だったろう。イランのドローン技術、中国からの武器汎用品の提供もある。

 ウクライナは戦争4年目に入り、自前の軍需産業を築きつつある。武器、弾薬の40~50%を国産化し、アメリカ、欧州からの財政的支援もある。

 双方とも民生部門のひずみ、労働力不足など問題をかかえているが、いずれも継戦能力は十分だ」

ウクライナからひけなくなったトランプ

――そもそもロシアはなぜ侵略したのか。ウクライナを自国の一部と考えているようだが。

「ウクライナが北大西洋条約機構(NATO)に加盟した場合の脅威を強く感じているのではないか。(9世紀から13世紀にかけて今のウクライナやロシアにまたがる地域に存在した国である)キーウ・ルーシはウクライナやベラルーシを包含していたので、自分たちから離れていくのは許せないという理不尽な歴史観をもっている。

 1000年も経て、文化、言語、宗教を同一視するのは非科学的だ。主権国家の領土一体性を武力で犯すことは許されない。第2次世界大戦後に築かれた〝法と秩序〟を揺るがす事態だ」

――侵攻直後と現在では戦いの形が変化したようだが。

 「ドローンが地上戦、航空戦、艦船攻撃でも大きな役割を果たしている。戦車や兵員輸送車は格好の標的になっている。初期に比べると格段に進歩し、AI、ロボットの機能まで付加されている。戦争終了後、治安、災害対策、救援活動に活用されるだろう」

――アメリカのトランプ政権の仲介をどう見るか。大統領はロシア寄りの発言を繰り返しているが。

「アメリカの駐ウクライナ大使が、侵略を受けている国に圧力をかけることに反対し、トランプ政権を批判して辞職した。しかし、ある時は欧州、ある時は米議会の働きかけがあって、トランプ大統領は欧州と協力して停戦させようというところまできた。しっかり継続させなければならない。ウクライナは鉱物資源協定を締結したので、トランプはひけなくなっただろう」


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