沖縄経済の切り札になるか?
OISTベンチャーへの期待
産学連携も始まっている。
沖縄科学技術大学院大学(OIST)発のスタートアップとして注目を集めているのが、EFポリマー(恩納村)だ。インド出身のナラヤン・ガルジャール最高経営責任者(CEO)がOISTの支援プログラムに採択され、20年に沖縄で起業した。
主要商品は、みかんの皮などの残渣から成分を抽出した粉末状の農業用吸水剤だ。自重のおよそ50倍の水を吸収でき、土壌内に水分や肥料の栄養分をとどめることで少量の水でも効率的に作物を育てられる。干ばつの影響を受けている人口は35億人おり、世界の農家が待ち望んだ革新的な商品だ。最高マーケティング責任者(CMO)の中尾享二氏は「海外では水不足の農家の需要が大きいが、国内では当初考えていた以上の副次的な効果があった」と語る。
読谷村の島袋農園は、毎年2~3月の収穫期に多数の人参の身割れに悩まされていた。乾燥した土地に大雨が降り、人参が急激に水分を吸ってしまうことが原因だ。EFポリマーを知ったとき「吸水剤が水を吸えば、土壌の水分を適切に保つことができ、身割れを防ぐことができるかもしれない」(島袋みさえさん)と考えた。結果的に、人参の歩留まりは5割から8割まで上昇した。
目下、シークヮーサーなど、沖縄の特産品の残渣から成分を抽出する研究を進めている。現在の製造拠点はインドにあるが、多拠点化も視野に入れており、沖縄は一つの候補地になる。中尾氏は「起業時にOISTや沖縄の財界に助けられたため、ナラヤンCEOも沖縄に還元したいという思いが強い」と話す。今年4月には総額10億円の資金調達を実施し、近い将来に沖縄発のユニコーン企業になる可能性も秘めている。
OIST Innovationシニアマネジャーの長嶺安奈氏は「OISTの強みは20~30年後を見据えた基礎研究にある。長い目で見れば沖縄の発展に貢献することは間違いないと思う」と述べ、さらに「研究成果を沖縄に還元したいと考え、取り組んでいる教員もいる。研究と地元の社会課題がマッチすれば、短期的にも沖縄経済に貢献できる可能性はある」と話す。
経済界もポテンシャルを生かすために知恵を絞る。沖縄経済同友会代表幹事の渕辺美紀氏は「優れた研究力があるものの、国内・県内での認知度が低く、経済界との連携も薄かったため、活用の仕方が分からないという状態だった。全国や世界から投資を呼び込み、研究の活性化やOIST発ベンチャーの増加につながれば、沖縄そして日本経済の発展にも寄与するはずだ」と期待する。
こうした沖縄独自かつ国から自立した経済に資する動きを「面的」に広げ、大輪の花を咲かせることができるのか。沖縄の真価が問われているのは、まさにこれからだ。
