2025年12月5日(金)

終わらない戦争・前編沖縄

2025年6月30日

沖縄経済の切り札になるか?
OISTベンチャーへの期待

 産学連携も始まっている。

 沖縄科学技術大学院大学(OIST)発のスタートアップとして注目を集めているのが、EFポリマー(恩納村)だ。インド出身のナラヤン・ガルジャール最高経営責任者(CEO)がOISTの支援プログラムに採択され、20年に沖縄で起業した。

 主要商品は、みかんの皮などの残渣から成分を抽出した粉末状の農業用吸水剤だ。自重のおよそ50倍の水を吸収でき、土壌内に水分や肥料の栄養分をとどめることで少量の水でも効率的に作物を育てられる。干ばつの影響を受けている人口は35億人おり、世界の農家が待ち望んだ革新的な商品だ。最高マーケティング責任者(CMO)の中尾享二氏は「海外では水不足の農家の需要が大きいが、国内では当初考えていた以上の副次的な効果があった」と語る。

農業用吸水剤のEFPOLYMER(EF Polymar社提供)

 読谷村の島袋農園は、毎年2~3月の収穫期に多数の人参の身割れに悩まされていた。乾燥した土地に大雨が降り、人参が急激に水分を吸ってしまうことが原因だ。EFポリマーを知ったとき「吸水剤が水を吸えば、土壌の水分を適切に保つことができ、身割れを防ぐことができるかもしれない」(島袋みさえさん)と考えた。結果的に、人参の歩留まりは5割から8割まで上昇した。

読谷村の島袋農園

 目下、シークヮーサーなど、沖縄の特産品の残渣から成分を抽出する研究を進めている。現在の製造拠点はインドにあるが、多拠点化も視野に入れており、沖縄は一つの候補地になる。中尾氏は「起業時にOISTや沖縄の財界に助けられたため、ナラヤンCEOも沖縄に還元したいという思いが強い」と話す。今年4月には総額10億円の資金調達を実施し、近い将来に沖縄発のユニコーン企業になる可能性も秘めている。

 OIST Innovationシニアマネジャーの長嶺安奈氏は「OISTの強みは20~30年後を見据えた基礎研究にある。長い目で見れば沖縄の発展に貢献することは間違いないと思う」と述べ、さらに「研究成果を沖縄に還元したいと考え、取り組んでいる教員もいる。研究と地元の社会課題がマッチすれば、短期的にも沖縄経済に貢献できる可能性はある」と話す。

 経済界もポテンシャルを生かすために知恵を絞る。沖縄経済同友会代表幹事の渕辺美紀氏は「優れた研究力があるものの、国内・県内での認知度が低く、経済界との連携も薄かったため、活用の仕方が分からないという状態だった。全国や世界から投資を呼び込み、研究の活性化やOIST発ベンチャーの増加につながれば、沖縄そして日本経済の発展にも寄与するはずだ」と期待する。

 こうした沖縄独自かつ国から自立した経済に資する動きを「面的」に広げ、大輪の花を咲かせることができるのか。沖縄の真価が問われているのは、まさにこれからだ。

Facebookでフォロー Xでフォロー メルマガに登録
▲「Wedge ONLINE」の新着記事などをお届けしています。
Wedge 2025年7月号より
終わらない戦争 沖縄が問うこの国のかたち
終わらない戦争 沖縄が問うこの国のかたち

かつて、日本は米国、中国と二正面で事を構え、破滅の道へと突き進んだ。 世界では今もなお、「終わらない戦争」が続き、戦間期を彷彿とさせるような不穏な雰囲気や空気感が漂い始めている。あの日本の悲劇はなぜ起こったのか、平時から繰り返し検証し、その教訓を胸に刻み込む必要がある。 だが、多くの日本人は、初等中等教育で修学旅行での平和学習の経験はあっても、「近現代史」を体系的に学ぶ機会は限られている。 かのウィンストン・チャーチルは「過去をさかのぼればさかのぼるほど、遠くの未来が見えるものだ」(『チャーチル名言録』扶桑社、中西輝政監修・監訳)と述べたが、今こそ、現代の諸問題と地続きの「歴史」に学び、この国の未来のあり方を描くことが必要だ。 そこで、小誌では、今号より2号連続で戦後80年特別企画を特集する。前編では、戦後日本の歪みを一身に背負わされてきた「沖縄」をめぐる諸問題を取り上げる。


新着記事

»もっと見る