2022年12月8日(木)

科学で斬るスポーツ

2014年5月7日

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玉村 治 (たまむら・おさむ)

スポーツ科学ジャーナリスト、科学ジャーナリスト

小学校より野球をはじめ、大学では投手として活躍。スポーツを科学的に分析することを得意とし、バンクーバー、ロンドン五輪、ワールドカップサッカーなどで取材。

 では、筋肉中のグリコーゲンが使い果たされると、どうなるのか。筋肉中に含まれるアミノ酸、中でも「BCAA系」と呼ばれるアミノ酸を使うことになる。そのため、ハーフタイムやタイムアウトがとれる競技では、このBCAA系アミノ酸飲料を飲むことが多い。しかし、フィギュアスケートは、ハーフタイムがない。そのため、いかにBCAA系アミノ酸をいかに体に蓄えておくかが重要になってくる。

※BCAA(Branched Chain Amino Acid=分岐鎖アミノ酸の略) 筋肉を構成するミオシン、アクチンを構成するのが、バリン、ロイシン、イソロイシンの分岐鎖アミノ酸。筋肉のエネルギー作用に関係するこれらアミノ酸のことをBCAA系アミノ酸という。たんぱく質の材料となるアミノ酸は20種類ある。このうちBCAA系アミノ酸など9種類は、体内で合成できない。食事として摂取しなくてはならない「必須アミノ酸」と呼ばれている。そのため、アスリートがパフォーマンスを上げるには食事・栄養をしっかりとることが重要になる。

羽生の「勝ち飯」栄養指導

 ここからが本題だ。日本オリンピック委員会(JOC)と大手食品メーカーの「味の素」が手を組んで、羽生への食事、栄養摂取指導が昨年7月から本格化した。味の素は2003年からJOCと共同で「ビクトリープロジェクト」と銘打ち、日本代表選手団に対して、食事、栄養面から継続的に支援を展開している。当初は、栄養補助食品だけだったが、2009年から「JOCゴールドパートナー」となり、栄養補助食品以外にも調味料、スープ類、甘味料などの商品を通じて選手らに提供するようになった。

 羽生への支援は、名付けて「Yuzuru’s nutrition method」(ゆづるの栄養法)。カナダ・トロントで生活をともにする、羽生の母親と連携をとり、普段の食事改善と、練習前後のアミノ酸摂取が2本柱だ。冬季五輪の選手は、夏季五輪の選手以上に遠征が多い。そのため食事は単調になりがち。まずは、競技のパフォーマンスを上げるため、食事・栄養の重要性を理解してもらうことから始まった。

 羽生に対するサポートの究極の目的は、(1)4分30秒のフリーを最後まで演じきるスタミナをつけること(2)練習や遠征の疲れが原因となる免疫力低下による風邪の予防の2点だ。

手軽に鍋で、食欲増進 

鍋キューブ(味の素提供)

 食事で気を使ったのは、ごはんをしっかり食べること。その一つの作戦が、鍋などの「汁モノ」作戦だ。五輪の選手村では、ビュッフェスタイルで食事をとれるが、肉ものなどがつい多くなりがち。野菜もしっかり食べられるように味の素が開発した「鍋キューブ」が威力を発揮した。

 鍋キューブは固形のスープの素。容器の中に水、野菜などの具と一緒に入れ、電子レンジで温めるだけ。鍋キューブは、うま味成分が含まれるが、うま味成分は、「これから食事が始まるよ」と脳を刺激し、胃腸を動かす準備を整える作用がある。実際、ソチ五輪の期間中に、選手村の外で、羽生選手と一緒に、鍋料理を囲んだ味の素の栗原秀文さん(37)は「羽生選手は、あまりステーキなど肉が好きではなく、どちらかというと食事(のことを考えるのが)が面倒くさいというタイプだった。うま味成分が入った鍋キューブを使って、4杯もおかわりしたことがあるほど。バランスよく、しかも楽しく食べられていた」と語る。

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