2025年12月5日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年8月1日

 英仏関係の進展は、防衛が英国にとりEUとの関係をより広く再構築できる分野の一つであることを際立たせた。これは、最近の貿易や経済的緊密化を制限してきた双方のレッドラインによる制約が少ない領域だ。

 EUがNATOの責任を代替することはあり得ないが、軍事力強化のための資金提供や共同調達の組織化の面でその役割は拡大している。英国は、フランスとの冷ややかな関係をいくらか解消した後、自国の軍事力と防衛産業の相対的な強みを活かして、EU全体と同様の取り組みを進めるべきだ。

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英仏の思惑の一致

 英仏関係は、歴史的なライバル意識による対抗関係を基調としてきたが、相互のその重要性を認識しており戦争等の危機や明確に利害が一致する場合には、協力関係が築かれることもあった。今般、英仏両首脳間で安全保障分野と移民問題について協力関係が進展したことは、当該分野における関係の緊密化を通じてEUとの間のこじれた関係の修復にもつながることが期待される。上記社説も分析する通り、特に、核抑止についての調整を含む軍事面での協力は、欧州の安全保障の強化にも資することになろう。

 核兵器関連の英仏間の合意としては、一方の重大利益が脅かされることは他方の国にとっても重大な脅威となるとの認識のもとに、核抑止に関する一般的な協力の方針を共有した1995年のチェッカーズ宣言や核兵器の研究や開発面での協力を含む二国間軍事協力に関する2010年のランカスターハウス条約があった。しかし、フランスが伝統的に核戦力の運用については完全な独立性を重視してきたことが、この分野での協力の進展を制約してきた。加えて、最近においては、英国のEU離脱や米英豪の安全保障枠組みAUKUS(オーカス)問題、さらには、フランスから英国に渡る不法移民の問題もあり、二国間関係は拗れていた。

 そのような中、ロンドン北方のノースウッドのNATO司令部で両首脳間の歴史的合意が成立した背景には、トランプの再登場による米国の欧州防衛についての関与の不透明化、ウクライナをめぐるロシアの脅威の深刻化がある。そして、英仏の思惑の一致がある。

 かねてより「欧州の戦略的自立」を持論とするマクロンは、3月にはフランスの核の傘を欧州に提供する可能性を示唆していた。他方、英国は、EU離脱後グローバルな舞台でより積極的な役割を果たす外交戦略を志向してきたが、昨年就任したスターマー首相は、ロシアに対抗する観点から、米国との特別な関係に加えて対EU関係の改善を重視し、その重点分野の1つに安全保障を位置付けている。かくして英仏両国の思惑が一致したものとみられる。


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