治療の継続を強く主張した、外科の下島医師は述懐する。
「あの時は治すことばかりを考えていた。(患者)本人がつらければ悪いことをした。(医師たちと)議論したことは本当によかった。(太郎ちゃんの)最期はよかった」と。
医師団とそのチームが、患者の今後の治療方針について議論する「カンファレンス」にまで、取材陣とカメラが入ったのには信頼感があったのは間違いない。太郎ちゃんの両親もまた、PICUの活動を広く知ってもらいたいという意志から、取材と撮影にも応じたのだろう。
当事者たちが語る課題
取材チームには、医療の政策について、PICUの医師たちから肉声で語ってもらうことから、政策の変更に役立つのではないか、という意図もあっただろう。
太郎ちゃんの治療計画に入っていた、小児の臓器移植はいま壁にぶつかっている。日本でも2010年から、家族の承諾があれば小児の臓器の提供は可能になった。しかし、提供者は少ない。移植まで3年待ちというのも珍しくはない。
PICUの中川聡医師は次のように静かに語るのだった。
「国民全体として(まず)大人が亡くなった時にドナーになるという仕組みを作らないと。(子どもの)移植は進まない」
日本国内のPICUの拡大に尽力してきた、兵庫県立こども病院の小児集中治療センター長の黒澤寛史医師は力説する。
「子ども命に対しては、決して優しくない向き合い方なんじゃないか。小児にかかる医療費は国の財産、どんだけつぎこんでもいい。印象としては優しくない」と。
この番組が取り上げた小児患者は太郎ちゃんだけではない。彼ら彼女らにもっと光があたることを祈ってやまない。
