分かれる太郎ちゃんへの向き合い方
今後の太郎ちゃんの治療を巡って、医師団の中で議論が起きた。太郎ちゃんの「生」と「死」をどう考えるかという極めて重要な決断を迫られていたのである。
外科・下島医師(太郎ちゃんの腸の手術を担当)
「いいうんちが出てるんですよ。いままでよりうんちの色も良くなっている」
半分残った腸に管をつなぎ栄養を可能な限り取れるようにした。一方、細菌感染を繰り返し、腎臓の機能を失い、尿が出なくなってもいた。
PICU・加藤宏樹医師
「かなり本人の状況としては追い込まれてきている状況かなと」
外科・下島医師
「ストーマ(人工肛門)からいいうんちがよくでている。こっちから整腸剤を入れ始め5㏄いれたらここから出た。使える腸を使うことになるので、それをやっていけたらというのがおなかの現状」
内分泌・代謝科の塩田翔吾医師
「内分泌科的な調整としては可能な限り投与カロリーを上げつつ、調整できればなと思う」
PICU・井手健太郎医師
「生きていける道が極めて細い感じがして、本当にその道があるのか、この子が1歳になっている道があるのか。けっこう、実は疑問で悲観的になっているつもりはないが、どう家族に伝えるか。
場合によっては、緩和ケアを今の時点で考えてもいいかもしれない状況。治療をやめたいとおもっているわけではない」
外科・下島医師
「井手先生がおっしゃるのには、僕は同意できなくて。2週間前は今よりはるかに悪かったと思う。今はいいと思う。・・栄養路ができたので、つながってはないけど使える腸の長さとしては一緒。そこをがんばって注入して栄養を確立しながら透析離脱とかを目指していく。2週間前に比べて今の方が希望はあると僕は思っている」
「治すことばかりを考えていた」
それから3カ月後、太郎ちゃんは血圧があがらずに危篤に陥った。そのとき、父親の立さんは、チンドン屋の全国大会に出場するために富山にいた。
PICUは、太郎ちゃんのために一室を用意した。富山の大会とネットで結んで父の立さんの演技がみえるようにした。息子に自分の仕事をみせるのが立さんの夢でもあった。
太郎ちゃんは父親の演技を見終わったのを満足したかのように、その夜遅く静かに息を引き取った。
