2025年12月5日(金)

田部康喜のTV読本

2025年7月26日

生後間もない時期から生死を行き来

 ドキュメンタリーの難しさは、取材者と取材の対象者との距離感にある。言い換えるならば、取材者が対象者に同情や過剰な感情移入をすると、観る者は心の動揺をきたして、取材者が訴えようとしているテーマを見失ってしまう。「生」と「死」の狭間を描いている本作のような作品はなおさらである。

 それは、ジャーナリストとしての心構えと同じである。本作の取材チームには、ジャーナリズムとともに、PICUの現場に密着して、子どもたちの「生」と「死」に向き合う医師とスタッフのチームの姿から、医療界の問題を提起して政策的な改善の手掛かりとなることを祈る、確かな信条がある。

生後間もない時から入院した太郎ちゃん

 PICUに生後4日目から入院していたのが「太郎ちゃん」だった。「生」と「死」の間を行き来にしながら最後まで生き抜いた。チンドン屋の全国大会にまで出場できる技量をもった、父親の里野立さんと明子さん夫婦の長男である。

 太郎ちゃんの担当医である、PICUの松本正太朗医師は次のような診断だった。

 「根本的治療は、肝臓移植なんです。肝臓がアンモニアを排泄できるようにするというのが、治療の主眼になる」

 生後3週間では移植は無理なので、成長を待っていたのだった。

 肝臓移植を前提とする治療の方向性を阻むような急変が、太郎ちゃんを襲った。腹部が張り裂けそうに膨れ上がったのだった。

 外科の下島直樹医師の執刀によって、命はあやうくも救われた。下島医師は語る。

 「腸がパンパンに張れあがって、肝臓によるおしっこの量が少なくなったんです」

 手術によって、小腸の半分が壊死しており、取り除かれた。あと、数時間遅れていれば失われていたかもしれない命だった。


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