トランプの姿勢の「転換」という評価は、7月初め以降の同氏の言動がこれまでと異なることを根拠としている。7月3日のプーチンとの電話会談を終えたあと、トランプは「プーチンの言うことの多くはデタラメだ……彼はいつもとてもナイスだが、結局は意味がない」などと、これまでにない厳しい言葉でプーチンを批判、そのうえで14日までに、これまでになく具体的な形で対露制裁に言及した。
このような発言は確かにこれまで見られなかった厳しさと具体性をもっているが、これを現に実行するのを見届けるまでは、トランプがウクライナ問題への姿勢を「転換」したと判断することはできない。
根深いトランプ・プーチン関係
今回のトランプの言動にこれまでとは異なる面があることは間違いないが、それが上記論説にある「重層的な圧力」として実質的な効果をもつか否かは、現時点では判断できない。
トランプのプーチンに対する宥和姿勢には根深いものがある。本年のG7サミットの際の「ロシアをG8から排除していなければ戦争は起こらなかった」等とする、明らかな事実誤認に基づく発言に典型的に表れているように、プーチンに対する信頼感は理屈を超えている。
プーチンの掲げる反グローバリズム、反リベラリズム、伝統的価値観の重視等の発想はトランプが米国内で推進しようとしているアジェンダの背景にある考え方と親和性があり、そのことが政治家プーチンに対する信頼感を支える要因の一つとなっていると思われる。
片やプーチンの方もこのようなトランプの姿勢は、①米露関係の正常化を通してロシアをグローバルな大国に復帰させる、②その中でウクライナ問題の意味を矮小化して行動の自由度を高める、③米欧デカップリングと欧州の分断を進める、等の観点で極めて都合が良く、トランプとの関係を棄損するような言動は今後も極力避けていくであろう。
以上のようなトランプ・プーチン関係の基本的性格が大きく変わらない限り、両者の関係は、本論説が指摘する「均衡状態」崩壊のプロセスを遅らせる要因として機能し続けることになるだろう。
