もっとも、何があってもとにかくトランプを支持する立場がMAGA派内で多数派であることは確かで、トランプが望めばより積極的な関与政策を取る余地はあろう。しかし、バノン等、徹底した「アメリカ・ファースト」の立場から、少しでも介入が長期化し、多額の財政支出を伴う可能性があれば拒絶反応を示すMAGA派有力者がいることも無視はできない。
また、エプスタイン事件に関する陰謀論をめぐり、MAGA 原理主義者とトランプの間に亀裂が深まっていることにも留意の必要があり、MAGA内の分裂の傾向がトランプの政権基盤を弱め、外交政策への支援に影響する可能性も排除はできない。
台湾有事への対応は?
西側同盟の立場からすれば、トランプの積極的な対外関与政策は好ましいとしても、関与を長期化させず財政負担増は避けるといったトランプの自己規制の限度内であることが見透かされてしまえば、「力による平和」戦略もプーチンのウクライナ侵略やイランの核開発の実効的な抑止には役に立ちそうにないことが問題であろう。
さらに、懸念されるのは、そのような制約が所与のものとなってしまうと、懸念される中国の台湾への侵攻や海上封鎖を抑止することにも役に立たず、むしろ従来の戦略的曖昧性以上に中国の誤った判断を招きかねない点ではないかと思われる。従って、中国が台湾有事に際しては、関税等の経済制裁に留まらず、海軍力の動員や地上軍の派遣、同盟国との協力など長期に渡る介入や財政面での負担も行うとの戦略的明確さを示す必要がある。
論説は、世論調査では、共和党支持者の3分の2は中国の侵略に備えた台湾への軍事援助を支持しているというが、台湾有事の際の米国の直接的な軍事介入については、慎重論が多数なのではないかと思われ、その点ではやはりMAGA派が障害となるだろう。トランプが何をするか分からないという「狂人理論」に頼らざるを得ないのかもしれない。

