トルコはシャラア暫定政権が内戦で宗派、部族に分断されたシリアのイスラム原理主義に基づく再統一を歓迎し、支援を惜しまないであろうが、問題は、シャラア政権だ。シャラア政権は、元はイスラム過激主義グループのアルカイダの一派で「自分達は過激主義を捨てて穏健なイスラム原理主義を目指す」と主張しているが、その後の行動が甚だ怪しい。
新生シリア軍の師団長にトルキスタン・イスラム党(ウイグル過激派)等の外国人イスラム過激主義者を任命したり、教育指導要領にユダヤ教徒とキリスト教徒は地獄に落ちると書いたりしている。上記社説は配下の部隊をコントロールするべきと書いているが、新生シリア軍の実態が異教徒を殺害することを神聖な義務と考えるイスラム過激主義者では無理だろう。
シャラア政権が20年以上続いて宗派、民族に分断されたシリアを再統一すること自体は当然だが、シャラア政権がイスラム原理主義に基づいてスンニ派アラブ(人口の70%)第一主義で強引にドゥルーズ教徒(人口の3%)、崩壊したアサド独裁政権を支えたアラウィ派(人口の13%)、キリスト教徒(人口の10%)、クルド人(人口の7%)を服従させようとすれば衝突するのは必然だ。
イスラエル内政の危機は外交の危機
さらに、イスラエル内政の問題がある。アラブ系だが異教徒として迫害されていたドゥルーズ教徒はイスラエルの建国以来ユダヤ人に味方し、兵役にも就いているのでその扱いは機微な問題だ。そして、1000人ものドゥルーズ教徒が応援のためにイスラエルからシリアに越境したというのは異常事態である。
それだけではなく、ネタニヤフ首相は、2つの宗教政党が連立政権から離脱し、内閣崩壊の危機に瀕している。内政上の危機は外政上の危機を作って凌ぐというのが同首相の常套手段だ。
シャラア暫定大統領は、イスラエルの武力に抗し得ないが、同時に配下のイスラム原理主義者(元過激派)からの突き上げにも配慮しなければならない難しい綱渡りを要求されるだろう。なお、最近のトルコとクルド勢力の和解を反映してシリアの北部と南部に割拠しているクルド人問題は表面化していないが、これも潜在的火種だ。

