日本に欠けている視点と
生かすべきチャンス
韓国は通貨危機という未曽有の非常事態からの脱却を図る中で、新たな産業創出という課題に真正面から向き合い、「コンテンツ」という価値を徹底的に評価し、磨き上げた。そして、人口5000万人という限られた国内市場を前提としつつも、早くから未開拓の海外市場に視野を広げ、コンテンツ産業への本格的な支援政策を推し進めた。この一連の動きは、明確な国家戦略に基づいた的確な実行だったといえる。
一方で、コンテンツ省(庁)設立の議論が続く日本では、これまで1億2000万人という大きな内需が経済的な安定を支えてきた。だが、コンテンツ産業の分野では、この恵まれた環境が競争の原動力を弱め、優秀な人材の流入を阻む要因にもなっているように見える。「憧れの産業」としての魅力が薄れつつあるのではないだろうか。
冒頭にも述べた通り、韓国の文化政策において特筆すべきは、優秀な若者が「コンテンツ産業に関わりたい」と思える環境を整備した点である。国の後押しによって彼らが成長し、クリエーターとしての実力を磨ける環境こそが、政策の本質であり、あるべき姿なのだ。
つまり、「文化政策=投資」ではないということだ。また、政府がやるべきことは、産業を発展させるうえでの〝土台づくり〟に他ならない。クリエーターが恩恵を実感できる環境をつくり、掲げた政策がどれだけ現場で実現されているか監視・評価することが重要だ。
優秀な人材を育てるには、労働環境の整備、正当な評価制度、そして自己成長が実感できる仕組みが不可欠だ。韓国では、「標準契約書の履行」による労働条件の監視、コンテンツの価値を評価する制度の導入、投資・融資の活性化など、現場を支える政策が徹底されている。こうした「現場に届く政策」、そして「現場を尊重する姿勢」こそが、コンテンツ産業を真に活性化させる鍵である。
今、日本のコンテンツ産業に最も必要とされているのは、まさにその視点ではないだろうか。
日本は、ゲームやアニメ、マンガなど世界に誇るIPを数多く有している。これらの資産が他国との協業を通じて再生産され、国境を越えた新たなビジネスモデルや展開の仕組みが生まれつつある。日本はこのチャンスをもっと生かすべきだ。〝国籍がない〟コンテンツ産業だからこそ、「メイド・イン・ジャパン」にこだわらず、「メイド・バイ・ジャパン」の視点に切り替え、「半歩先」を切り拓くための具体的な政策と実行力が求められている。

