立川談春は、立川談志家元の直弟子であり、いまや落語界の大看板ともいえる存在である。独演会のチケットは瞬間に完売する。私も幾度か試みたが手に入れられなかった。
青島製作所のライバル会社である、イツワ電器社長の坂東昌彦役が、その談春だった。細川(唐沢)の敵役である。
随筆がうまい役者たち
キャスティングは、主役の唐沢に対して、敵役に談春をぶつける。俳優と落語家、このふたりには共通なものがある。それは卓越した随筆を書く文章力である。
唐沢が書いた『ふたり』は高校の教科書に取り入れられたことで知られる。談春は『赤めだか』である。修行時代の談志家元の不合理ともいえる行動を描くとともに、唐沢作品と同様に若者が下積みから苦労を重ねて、成長していく姿がよくわかる。
主役の唐沢に対して、談春は陰険な敵役を見事に演じている。
わき道にそれるが、随筆がうまい役者が私は好きだ。戦後を代表する二枚目の池部良は太平洋戦争で自らが南方に出征して帰還した体験談などに珠玉の文章を残した。
戦前に子役でデビューして、戦後の大女優のひとりとなった高峰秀子もまたそうだ。日本を代表する映画監督である、黒澤明との愛と別れの随筆はいまも心に残る。
名優というものは、演じる自分をどこかで客観的にみつめている、もうひとりの自分がいるのではないだろうか。
次なる危機を「逆転」できるか
「ルーズヴェルト・ゲーム」に戻る。野球の試合としては最も醍醐味があるのは、「8対7」の打撃戦つまり逆転につぐ逆転である、と米国のルーズヴェルト大統領がいったという逸話からきている。
ジャパニクスとイツワ電器は、青島製作所のメインバンクの支店・融資課長を引き入れて、融資の引き上げを画策して、いったんは青島を窮地に追い詰める。しかしながら、融資課長の不正を暴くことによって、細川は「逆転」に成功する。
次なる危機を「逆転」できるか。このドラマのシリーズは中盤のヤマ場にさしかかっている。