2025年12月5日(金)

プーチンのロシア

2025年8月19日

 しかし、米側の決定にインドは反発する。インド政府は米国が、原子力発電の燃料となる六フッ化ウランや電気自動車(EV)生産に必要なパラジウムなどの輸入を継続していると指摘し、米国の姿勢はダブルスタンダードだとの批判を強める。

 インドにとり、制裁で行き場を失い廉価に買い叩けるロシア産原油の購入は、自国のインフレ問題を抑え込むうえでも重要だった。米側の姿勢を受け、インドの石油大手によるロシア産原油の輸入は今後縮小する可能性も指摘されているが、インドにとり好ましい状況でないことは間違いない。

 インド政財界の不満はくすぶる。インドのシンクタンクは、追加関税が繊維や宝石、皮革産業など、インド国内でも特に規模が小さい企業が集積する産業に強い打撃を与える事態を懸念。今回の事態を受け、「外交、産業支援などは慎重に進めつつも、新たな市場の開拓を目指すべきだ」と訴えるなど、〝米国離れ〟を促す風潮が強まりつつある。

不透明な「2次関税」

 中国はどうか。トランプ政権は中国に対し、最大145%の追加関税を課したが、5月にスイスで行われた通商協議でいったんは関税措置の停止、廃止を決め、協議を継続することで合意。さらに、7月には関税措置の適用停止期限を90日間延長することで合意し、結局11月まで協議が継続される見通しとなった。これにより、合計で54%に上がる可能性があったトランプ政権による対中追加関税は、当面30%でとどまることとなった。

 両国はロシアが加わるBRICSのメンバー国で、経済面でロシアを支えている。中国は、インド以上にロシア産原油を輸入しているほか、ロシアが制裁で調達が困難になった機械部品などを大量に輸出している実態が明らかになっており、貿易全般でロシア経済を支えている。

 トランプ氏はロシアから石油や天然ガスなどを輸入する第三国に対し、100%の関税を課す「2次関税」を打ち出しているが、制度の詳細は不明だ。中国、インドに対する関税協議において、どこまで両国の対露接近がその緩和の条件になっているのかも不透明だ。

 もともと、中国、インドは巨額の対米貿易黒字があり、追加関税がそのような状況への不満を背景に打ち出されていることは間違いない。実際に米国は、インドとの協議を継続し、早期の2国間貿易協定の締結を目指している。

 中国に対してもトランプ氏は8月10日、「今すぐ米国産大豆の輸入を4倍に引き上げ、米国の対中貿易赤字を削減するべきだ」と発言。プーチン大統領との首脳会談後の会見では、中国による巨額のロシア産原油の輸入に対し、二次制裁として追加関税などを科す必要性は「今後2、3週間はない」と発言した。

中国、インドはロシアとさらに接近

 そのような米トランプ政権の政策は、中国、インドがロシアとさらに関係を緊密化させる理由を生み出している可能性がある。

 首脳会談に先立ちプーチン氏は中国の習近平国家主席、インドのモディ首相らと相次ぎ電話会談し、事前に実施された米国のウィトコフ大統領特使との会談内容を共有するなど、両国との連携に余念がない状況を改めて示した。またプーチン氏、モディ氏は8月末に中国・天津で実施される上海協力機構(SCO)首脳会議に出席する計画で、個別の首脳会談が実施される可能性が高い。


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