法的な目的や手段の整備は今後の課題であるが、こうした情報は診療報酬の単価の上げ下げに代わる社会保障の基盤となるものだ。
「実需」に合った
社会保障の実現
日本の医療サービスを維持し続けるためには、「実需」に即した医療を医療者・患者・機器メーカーも含めた医療関係者の全体で目指していかなければならない。
ただ、需要といっても、臨床上の必要性や緊急性が明らかな「客観的な必要性(ニーズ:Needs)」と、制度の許す限り医療サービスを使いたいという「患者側の希望(ウォンツ:Wants)」が一致することはほぼない。
日本の人口構造を考えれば、ニーズに対する医療提供を、まずは公的財源や自己負担による社会保障制度で確保すること(ナショナルミニマムの維持)が優先される。その際には、医療機関の投資状況に無駄がないか、患者の利用実態に重複がないか、「言いなりの公費投入」を見直し、医療機関の事業報告や患者の診療履歴など、今あるデータを有効活用すべきだ。
一方で、医療も科学であり、成否が分からない試行錯誤の段階にある医療を選択肢として広げることがイノベーションを生む。標準化された治療でなくとも、患者が試したいという希望は十分に尊重されるべきだ。そのためには、公的保険適用の医療サービスとの併用ができる、自己負担での療養(保険外併用療養費制度)の選択や、それらの自由診療部分をサポートする民間医療保険の拡大が望まれる。
自己負担の拡大を求めれば、医療の格差が広がるという意見が出るかもしれない。だが、試行錯誤がなければ、医療のイノベーションはなく、イノベーションがなければ、国民全体が効率化や質の向上の恩恵を受けることはできない。受けられるはずのナショナルミニマムの医療もいずれ縮小し、「安かろう、悪かろう」になってしまうだろう。
これまで保険診療の給付範囲が広く、かつ低い自己負担を実現したことは日本の医療の大きな成果であるが、今後はこれが文字通り「命取り」になりかねない。
どうすれば、皆がアクセスできる医療を、できるだけ効率的な投資と負担で実現できるのか、マイナンバーが使える時代に合わせた検討が必要だろう。
