2025年12月6日(土)

日本の医療は誰のものか

2025年8月31日

 ただ、大学病院は、高度な専門性を有する各診療科によって構成されているが、その半面、患者さんにとっては「どこを受診すべきか」が分かりづらいという構造的課題も抱えている。

大学病院における
〝扇の要〟としての挑戦

 例えば、原因不明の体重減少が起きた時、患者さん本人では何科を受診すればいいか判断が難しい。仮に、推測で特定の診療科に行ったとして、その診療科の担当する範囲の検査値が正常であれば、「異常なし」と診断されてしまう可能性もある。総合診療医は、その曖昧さに応える「初期窓口」として、あらゆる不調を感じている患者さんを受け止め、その人の異変の原因を、生活面などの質問を重ねることで丁寧にひもといていく。必要な検査を問診によって的確に見極めた上で、最適な専門診療科へと誘導することが私たちの役割だ。その姿は、まさに病院全体を円滑に機能させる〝扇の要〟といえるのではないだろうか。

 ただ、残念ながら多くの病院では、総合診療科は、他の診療科と〝兼務〟という形を取られ、臓器別専門分野を重視する傾向が強い。順天堂大学における総合診療科は兼務体制と一線を画し、総合診療を志して入局した若手医師を診療・教育の両面で専門的に育成している。

 彼らが一人の専門医として確かな臨床力を備えられる環境を早期から整えていることは、総合診療科を大学医療の中核に据えるという本学の明確な意思の表れでもある。

 さらに現在では、AIやデータサイエンスといった先端技術を取り入れ、いわゆる「未病」や「予病」へのアプローチにも取り組んでいる。症状の発現前からリスクを予測し、生活背景と環境因子に目を向ける診療─それは、大学病院という知の集積地でこそ可能な挑戦であり、研究と教育の成果を社会に還元する道でもある。

 総合診療科の果たすべき使命は、単なる診療の一断面にとどまらない。「人を診る医療」を実現するための知見と人材を育み、次代の医療を支える柱として、私たちは今、静かに、しかし確実にその歩みを進めている。


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