2025年12月5日(金)

日本の医療は誰のものか

2025年8月31日

 いま、「総合診療医」の存在が改めて注目されている。総合診療医を主人公としたTBS系ドラマ『19番目のカルテ』も反響を呼び、関心は医療現場にとどまらず一般社会にも広がっている。

 地域医療を担うイメージが強い総合診療医だが、実は大学病院でも不可欠な存在となりつつある。その現状と展望について、順天堂大学医学部総合診療科で診療・教育・研究・マネジメントを担う齋田瑞恵准教授に聞いた。

齋田瑞恵(Mizue Saita)
順天堂大学医学部 総合診療科学講座 准教授 順天堂医院総合診療科医局長。
総合診療専門医として、診療・教育・研究に従事。西洋医学と東洋医学を融合した外来診療に定評があり、コロナ後遺症、予防接種啓発、生活習慣改善にも力を注ぐ。子育てやイタリア在住経験を生かした、温かく寄り添う診療スタイルで支持を集める。

 「なぜ総合診療を選んだのか」と問われるたびに、医師としての原点に立ち返る。学生時代から惹かれていたのは、臓器を診るのではなく、人そのものを診る医療だった。祖父から受け継がれた「凡医尽人(平凡な医師ほど、人のために尽力する)」という言葉が影響していたのかもしれない。症状の裏にある生活背景や心理的要因にまで目を向ける姿勢に、医療の本質を感じていた。

 総合診療という分野が十分に知られていなかった頃は、「何でも屋」と捉えられることもあった。しかし実際に現場に立つと、専門医一人では対応しきれない患者が、いかに多いかを痛感する。

 例えば、高血圧や糖尿病、軽度の認知症が重なった高齢者は、複数の診療科にまたがる診療が必要だ。その際、全体像を把握して最適な方針を立てる医師の存在が欠かせない。私たち総合診療医は、その「つなぎ役」「調整役」として、診療科の垣根を越えた診断と支援を担っている。

 特に高齢者は複数疾患を抱えている場合が多く、高齢化が進む日本の医療においては、臓器ごとの「専門医」一辺倒では拾えないものがあると確信している。

 私の勤める順天堂大学総合診療科では、外来診療および病棟において、日々様々な相談を受けている。中でも、先述のような「複数疾患の併存による診療の複雑化」に加え、「診断が難航する症例」は、極めて頻度が高く、私たちの専門性が真に発揮される領域である。


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