一般的な樹木の危険度の判定基準として、断面積の腐朽・空洞率が59%以上で「危険域」、34%以上で「警告域」とする基準がある(幹の中心部に円形の心材腐朽があり、開口部がない場合において)。戦災樹木の断面もこれに照らし合わせて、評価された。
その結果、「危険域」と判定されたのが、御神木の大イチョウだった(測定高0.3mで85.8%、0.9mで53.2%、1.5mで49.1%)。この木は「樹木全体が燃えた」と伝っており、根本から幹の頭頂部まで樹木全体が焼け焦げている。ただし、戦後に萌芽した枝(下の写真、左側。二股に分かれたように見える太い枝(幹)のこと)では、損傷や腐朽は確認されなかった。つまり、新たな株が損傷した樹幹をカバーするように成長し、樹木全体を支えていることがわかった。
他にも、樹齢が比較的若い戦災樹木では、回復成長による巻き込みなどで損傷部が完全に覆われ、修復が完了していることが確認された。
関東大震災と空襲、ダブル被災樹は
2022年には、東京都文京区の湯島聖堂で調査※2が行われた。対象となったのは、1923年(大正12年)の関東大震災と、戦災の二度の被災をくぐり抜けた13本の樹木(イチョウ11本、シイ1本、カヤ1本)だ。計41の断面が得られ、そのうち29の断面で腐朽率や空洞率が算出された。
例えば、次のイチョウは、根元から先端まで幹が黒く焼け焦げ、地震や戦争で被害を受けた樹木の典型的な特徴を有している。腐朽・空洞率は0.3m で41.6%、0.9mで43%、1.5mで32.4%と腐朽の兆候が見られるものの、その周りに成長した健康な外樹皮が樹木全体を支えていることが示された。
こうしたデータを積み重ね、根岸さんは幹の断面に基づき損傷状態を5つに分類した。
II:損傷した(焼け焦げた)幹や枝の一部を樹皮が巻き込んで開口部分を塞いでいるもの
III:空洞ができ、その側壁が焼け焦げ、巻き込みによって「C」のような形状となったもの
IV:損傷部分が完全に巻き込まれ、開口部には縦のスリット状の隙間のみが確認できるもの
V:測定範囲では損傷が確認されなかったもの
