2025年12月5日(金)

コメと日本人

2025年9月22日

 日本は「瑞穂の国」と自称するが、それは日本だけではない。数字だけで見ると、生産量、消費量共に中国がトップだ。生産量だけで約1.5億トン(2020年)、世界の30%を占める。日本は2%にすぎない。

 もちろん、インディカ米、ジャポニカ米という種類の違いはあるが、2位以降の生産量を見ても、インド、バングラデシュ、インドネシア、ベトナム、タイ、ミャンマー、フィリピン、そして日本の順番で、消費量も同じ順だ。コメの輸出となると、インド、タイ、ベトナムがトップ3となる。

知らないという「謙虚さ」を

 漱石の小説にもインディカ米が登場する。『坑夫』の中で、「南京米の味も知らねえで、坑夫になろうなんて、頭っから料簡違だ」(青空文庫より)というセリフが出てくる。

 南京米とは、インディカ米のことだろう。人口増加が続く中、1890年には、日本のコメ自給率は100%を割り込み、輸入に頼らざるを得なくなっていた。『坑夫』の連載が始まったのは1908年。インディカ米は、当時の日本人には慣れない味だったに違いない。

 現在、40代以上の人であれば、冷夏による不作で起きた93年の「平成の米騒動」について記憶があるだろう。この時、インディカ米のタイ米が輸入されたが不評だった。それでも「料理によってインディカ米も、おいしく食べることができる」という声もあった。

 「令和の米騒動」では、平成と違い、通信手段の発達で有象無象の情報が飛び交った。この失敗を教訓とするとすれば、知ったつもりにならず、知らないという「謙虚さ」を持つことだろう。

 謙虚さに付け加えると、敗戦直後の食糧難の時期、日本はビルマ(現在のミャンマー)やエジプトからコメを輸入して飢えを凌いできた。そこで救われた命が今の我々につながっている。その感謝を忘れるべきではない。

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Wedge 2025年10月号より
コメと日本人
コメと日本人

「令和の米騒動」─。米価高騰、コメ不足の原因は複数あるが、ここまで騒ぎが大きくなった背景には、稲作に対する、長年の国民の無関心もあるのではないか。稲作の未来を経済的に考えれば、スマート化、大規模化一択なのだろう。しかし、それによって地域の担い手や環境保全は誰が行ってゆくのかの議論は乏しい。「喉元過ぎれば熱さを忘れる」で、米価が下がれば関心をなくすのではなく、日本の稲作の未来をどうするのか、時間をかけて考え、耕していく必要がある。


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