日本は「瑞穂の国」と自称するが、それは日本だけではない。数字だけで見ると、生産量、消費量共に中国がトップだ。生産量だけで約1.5億トン(2020年)、世界の30%を占める。日本は2%にすぎない。
もちろん、インディカ米、ジャポニカ米という種類の違いはあるが、2位以降の生産量を見ても、インド、バングラデシュ、インドネシア、ベトナム、タイ、ミャンマー、フィリピン、そして日本の順番で、消費量も同じ順だ。コメの輸出となると、インド、タイ、ベトナムがトップ3となる。
知らないという「謙虚さ」を
漱石の小説にもインディカ米が登場する。『坑夫』の中で、「南京米の味も知らねえで、坑夫になろうなんて、頭っから料簡違だ」(青空文庫より)というセリフが出てくる。
南京米とは、インディカ米のことだろう。人口増加が続く中、1890年には、日本のコメ自給率は100%を割り込み、輸入に頼らざるを得なくなっていた。『坑夫』の連載が始まったのは1908年。インディカ米は、当時の日本人には慣れない味だったに違いない。
現在、40代以上の人であれば、冷夏による不作で起きた93年の「平成の米騒動」について記憶があるだろう。この時、インディカ米のタイ米が輸入されたが不評だった。それでも「料理によってインディカ米も、おいしく食べることができる」という声もあった。
「令和の米騒動」では、平成と違い、通信手段の発達で有象無象の情報が飛び交った。この失敗を教訓とするとすれば、知ったつもりにならず、知らないという「謙虚さ」を持つことだろう。
謙虚さに付け加えると、敗戦直後の食糧難の時期、日本はビルマ(現在のミャンマー)やエジプトからコメを輸入して飢えを凌いできた。そこで救われた命が今の我々につながっている。その感謝を忘れるべきではない。
