2025年12月5日(金)

Wedge REPORT

2025年9月22日

変化を続けるクマ
追いつかない人間の対策

 そもそも捕獲によって個体数は減少しているのだろうか。残念ながら現在の捕獲数は、クマ類の個体数が増えている分を捕獲しているだけで、個体数の増加の勢いを止められていないとみる必要があるだろう。

 動物の個体数は常に変動しており、そのトレンド、つまり増加傾向にあるのか、減少傾向にあるのか、捕獲は増加率に対してどの程度の割合なのかなどを把握することが必要である。しかし、トレンドまで把握している地域は極めて少ない。

 クマ類の個体群は複雑な系で変動するが、あえて単純化してみよう。近畿圏では、クマの増加率は平均15%/年と推定されている。

 例えば800頭生息している場合、毎年増える頭数は120頭となる。そのため、4000頭以上生息している県では、600頭以上増えるということだ。

 北海道にいたっては推定生息数が1万2000頭なので、毎年1800頭増えているかもしれないのだ。ましてや東北や北海道の森林環境は、近畿圏に比べてはるかに良質で大規模であることを考慮すると、増加率はさらに高い可能性がある。

 このまま増え続ける状況を容認すれば、対策は追い付かず管理不能に陥る恐れがある。まずは増加率以上の捕獲を行い、生息数を被害の少なかった時代まで減らしていかなければ、今後も人的な被害を受け続けるだろう。

 しかし、クマ類の捕獲はたやすい仕事ではない。また相当な知識や技術を要し、安全確保のための訓練も必要である。

 今は何とか地域の有害捕獲班が対応しているが、多くの地域で高齢者が担わざるを得ない状況があり、近い将来は捕獲できなくなる恐れさえある。今のままの体制では、立ち行かなくなることは明らかなのだ。

 もう一つの側面は、市街地への出没が加速しているという点である。特に今年は、クマが積極的に平地の人家や敷地内にまで侵入する、住宅街を繰り返しうろつく、あるいは、襲撃した後に被害者を草むらにひきずり込むなど、行動がエスカレートしている。

 臆病なはずのクマたちがなぜここまでの行動に出るのだろうか。学習能力の高いクマたちの行動が、いきなり変化するとは考えにくい。人が気付かないうちに、ゆっくりと人の生活圏に慣れ、危険がなく安全で、農作物やゴミなどが豊富にあることを学んでいると考えるべきである。

 人の生活圏には、森林内では得られないような高栄養な資源があることが多く、野生動物にとって〝麻薬〟のようなものとなり、やめられなくなってしまうのである。ある時、食物不足などの何らかのトリガーが外れると、突如大胆な行動に変化し、人が気付いた時には手遅れになってしまう。クマの被害が増えている今はまさにこの段階であり、末期的な状況ととらえるべきだ。

 こうなる前に、なぜ対策が行われなかったのだろうか。クマが生息している地域では、日常的に誘引物を取り除く、農地は電気柵で囲う、人の生活圏とクマの生息地の間が藪で覆われないように環境整備する、この3セットが対策として必要である。しかし、それは「言うは易く行うは難し」の典型的なもので、大変な労力を要する。


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