森林土木すなわち治山とか林道工事は、急峻な山岳の中で行われる工事である。対象箇所の地形の悪さから、どんな土木業者でもできるというわけにはいかなかった。
戦後まで丸太の搬出を担っていたのは森林鉄道やトロッコだったが、徐々にトラック輸送にシフトしていき、林道の建設が急務となった1950年代には、技術面でも安全面でもリスクの多い治山・林道工事に携わる建設業者は少なかった。
国有林では、しぶる建設業者に何とか拝み倒して受注してもらっていた。あえてリスクを背負ってくれた建設業者に対して国の技術者たちが恩義を感じたのは当然であろう。
建設業者としてもリスクはあるにしろ、たとえ山間僻地であっても国の直轄事業を受注することによって、信用度がぐっと高まり、一般土木工事の受注機会を広げた。国有林の治山・林道工事の受注を梃子(てこ)として、都道府県のゼネコンクラスに成長した業者も多く出た。
こうした企業の創業者たちは、自分たちを育ててくれた国有林の治山・林道工事への思い入れが深かった。国有林からの受注額など知れたものではあっても、国有林への恩義を忘れなかった。こうして国有林と関係建設業者の相思相愛の関係ができていった。
林道に学ぶ土木技術の基礎
建設業者にとって技術的側面からも林道工事の存在は重要だった。原始的な道路である林道工事には、土工が多いなど建設工事の基礎的技術が盛りだくさんなことから、若い技術者を育成するために、まず林道工事の現場を担当させた。民間らしい現場重視の合理的な技術者養成方法である。
それに対して国有林では、圧倒的に農林高校の林業科出身者が多い中で、林道・治山担当者は主に工業高校の土木科出身者が多く、専門性を考慮した採用をしていた。
