2025年12月6日(土)

家庭医の日常

2025年9月27日

家庭医のメンタルヘルスケアの質を高めるために

 日本では、子供のメンタルヘルスの診療についてのガイドラインは、現時点で見つけることができなかった。

 一方、例えば英国では、医療技術評価機構(NICE)が、うつ病、統合失調症、行動障害、性的問題行動、情緒発達、学習障害、学校教育でのウェルビーイングなど、それぞれについて対象を小児と若者に特化した診療ガイドラインを発表し、継続して更新している。

 こうしたいわばケアについての社会的インフラが整備されていると、児童精神科医も家庭医も、看護師もソーシャルワーカーも薬剤師も、そして患者も家族も、みんなが同じガイドラインを共有することができて、最新最良の臨床研究のエビデンスを考慮した標準的なケアについて理解することができる。そして、その共通の理解基盤から患者・家族の抱える個別の事情や意向を考慮して、彼らにとって最適なケアのオプションを一緒に決めることができる。

 一般向けの情報提供についても、日本では整備が遅れている。文部科学省では『子供の心のケアのために』(保護者用)という冊子を公開しているが、2015年に改訂されたもので古く、どういう専門家がこの冊子の作成に関わったのか、どういう科学的根拠を参考にしているのかは明らかにされていない。

 一方、例えば英国では、メンタルヘルスについて多くの人が最初に参照する国民保健サービス(NHS)の市民向けウェブサイト『Mental Health』から容易に『Mental health for children, teenagers and young adults』へ進んで行って、多くの最新の情報を参照することができる。各ページで情報が古くなっていないか定期的にチェックされていて、最後に確認された日付と次回の確認予定日が明記されている。

 さらに、それぞれの問題に関連して地域で支援を提供するチャリティー団体のリンクも豊富に掲載されている。

 W.Y.くんにとって幸いだったのは、私が働く家庭医診療所の保健師が地域の情報を持ってきてくれたことだ。当時、小学校跡地にある旧校舎を改築してコミュニティー活動の複合施設ができていて、そこに市の図書館を定年退職した司書さんが、子供から高齢者まで利用できるカフェ付き図書室を運営することになり、図書室で本の整理などを手伝ってくれる人を探していたのだ。

 W.Y.くんはもともと本が好きだったので、このお手伝いをすることに興味があるか尋ねてみたら、「やってみたい」ということになった。実現までの諸条件は、大人たちのネットワークでなんとか解決した。

 無理のない週2時間から始め、現在は週3日、1日4時間ほどお手伝いをしている。図書室もさまざまな年齢の市民から好評で、司書さんもW.Y.くんのお手伝いに満足している。

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