2024年7月16日(火)

家庭医の日常

2023年5月25日

病気や症状、生活環境がそれぞれ異なる患者の相談に対し、患者の心身や生活すべてを診る家庭医がどのように診察して、健康を改善させていくか。患者とのやり取りを通じてその日常を伝える。
(nicoletaionescu/gettyimages)

<本日の患者>
G.N.ちゃん、11カ月、男児
K.N.ちゃん、4歳、女児
M.N.さん、35歳、女性、歯科衛生士(育児休暇中)。

「M.N.さん、『エコチル』って聞いたことありますか」

「えっ?『ミスチル』なら母が好きだったんで分かりますけど……」

「ああ、もうそんな年代なんですね(笑)。『ミスチル』と同じで『エコチル』の『チル』は『チルドレン(子どもたち)』です。『エコロジー(自然環境)』と『チルドレン』を組み合わせた造語で、環境省が2011年から実施している『子どもの健康と環境に関する全国調査』のニックネームです。その調査で興味深い結果が出てるんですよ」

 M.N.さんは、2年前に夫の転勤でこの町に引っ越してきた。2人の子どもたちのアレルギー疾患、中でも食物アレルギーとアトピー性皮膚炎ではとても苦労をしてきた。

 幸い、上の子(K.N.ちゃん)の症状はおさまり、下の子(G.N.ちゃん)の発症予防策は功を奏しているようである。今日は、2人の子どもたちの症状の確認と、今後のマネジメント計画を相談する目的で受診している。

食物アレルギーとは

 食物アレルギーは、ある特定の食品を食べたり、触れたりすることによってアレルギー症状が出る疾患である。アレルギー症状は身体のさまざまなところ(臓器系)に現れるが、約90%が皮膚症状(かゆみ、蕁麻疹、腫れ、発赤、湿疹など)、約30%が呼吸器症状(くしゃみ、鼻水、鼻づまり、咳、息苦しさ、喘鳴など)や粘膜症状(目の充血や腫れ、涙、かゆみ、口腔・唇・舌の違和感や腫れなど)と多く、その他、消化器症状(腹痛、嘔気、嘔吐、下痢など)や神経症状(頭痛、元気がなくなる、眠気、意識がもうろうとするなど)などがある。

 複数の臓器系にわたって急に症状が出ることがあり、「アナフィラキシー」と呼ばれる。アナフィラキシーが血圧低下や意識障害などの全身症状を伴って急激に進行することは「アナフィラキシー・ショック」と呼ばれ、生命に関わることがある。新型コロナウイルスの予防接種でもまれに起こるので、アナフィラキシー・ショックは社会的にもだいぶ知られるようになった。

 食物アレルギー、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、花粉症(アレルギー性鼻炎・結膜炎を含む)など、子どものアレルギー疾患が増えていると言われている。だが、それを示す最新・最良の臨床研究のエビデンスを探すことはなかなか容易ではない。

 診断にしても、親などの自己申告からアレルギー専門医療施設での食物経口負荷試験(対象となる食品を摂取して症状の有無を確認する検査)による確定診断まで、かなり信頼度にばらつきがあり、その症状がアレルギー疾患によるものかの判断は難しい。

 食物アレルギーのさまざまな情報を知るには、現時点では、日本小児アレルギー学会食物アレルギー委員会が系統的な方法を用いて臨床研究のエビデンスを吟味して作成している『食物アレルギー診療ガイドライン2021』ダイジェスト版も公開されている)が参考になる。

 一般の人、特に妊活・妊娠・育児中の人とパートナーには、2022年10月の『妊活する夫婦が知っておくべき健康のこと』でも紹介した『たまごクラブ』と『ひよこクラブ』のオンライン版『たまひよ』もお薦めしたい。「食物アレルギー」で検索すると、上記の診療ガイドラインなどを参考にした比較的標準化された記事が多く掲載されており、何よりも読みやすく書かれているのが良い。


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