右派、左派限らず起きる
そして、政治的暴力の増加は特定の党派性や政治的信条と結びついているわけではなさそうだ。例えば、右派によるものとしては、21年連邦議会議事堂襲撃事件、ミシガン州知事であるグレッチェン・ホイットマーを誘拐し殺害しようとした事件、ペンシルベニア州知事であるジョシュ・シャピロ(民主党)の公邸を放火した事件、ミネソタ州民主党下院議員のメリッサ・ホートマンと夫が射殺された事件、下院議長であったナンシー・ペロシの自宅を襲撃して夫をハンマーで殴打する事件などがあった。
トランプと右派をターゲットにした事件としては、17年にルイジアナ州選出の連邦下院議員で共和党下院ナンバー3だったスティーブ・スカリスが銃撃された事件があるし、24年にはトランプも二度、暗殺未遂事件の標的となった。政府機関に対する攻撃としても、例えばテキサス州の拘留施設の外で移民関税執行局(ICE)の職員が銃撃され負傷したし、疾病対策センター(CDC)本部が銃撃犯に襲われるなどした。
事件を政治利用するトランプ政権
政治的動機に基づく暴力事件の背景に、近年の政治的分断の激化があるのは間違いないだろう。トーク番組やケーブルニュースでは昔から過激な議論が展開されていたが、ソーシャルメディアとそのアルゴリズムが過激な暴力性を増幅させている。
もっとも、国民の大半は分断をあおる熱狂的なレトリックに直面しても暴力を用いて問題に対応しようとは考えないが、政治活動に深く関わっている人ほど相手側の信念について不正確な見解を持っており、その一部は対立と敵意をあおる過激な議論から影響を受けて暴力を実践している。
カーク銃撃事件の容疑者とされるタイラー・ロビンソンは、MAGA(米国を再び偉大に)派の両親のもとで育った人物で、トランスジェンダーのパートナーの恋人もおり、その政治的、イデオロギー的立場を単純化して説明することができそうにない。だが、事件後、トランプをはじめとする保守派は、政治的暴力の責任を左派に押し付けようとしている。イーロン・マスクがXで「左派は殺人政党だ」と記したことは、衝撃を与えた。
