また、歴代の大統領はこのような事件があると暴力を非難して国民の融和を訴えかけるのが一般的だが、トランプは追悼式でカークを「真実を語って暗殺された。自由のための殉教者になったのだ」と評して英雄視すると同時に、「政治的暴力を犯す急進左派のネットワークを調査する」と民主党左派勢力に矛先を向けて右派の結束を呼びかけた。寡婦が「犯人を赦す」と述べたのとは対照的で、事件を政治利用しようとしているのは明らかだ。
反対する党派でも「死」が容認できない
他方、カークの死後、ソーシャルメディア上でカークの死を祝福する左派の人物によるコメントが物議を招いたのも見過ごせない事実だ。事件後に行われたYouGovの世論調査によると、反対する党派の公人の死を喜ぶことは「常に、あるいは大抵は容認できない」と答える人が、「容認できる」と答える人よりも圧倒的に多い(77%対8%)。
だが、今回の調査では党派性の違いもみられており、リベラル派の16%が「常に、あるいは大抵は容認できる」と答えているのは驚くべき数字である。より詳細に見ると、自らのイデオロギーについて、非常にリベラルとした人では24%、リベラルだがそれほどリベラルではないと答えた人では10%である。
ただし、非常にリベラルな人々の間でも、政敵の死を喜ぶことは受け入れられないという回答(56%)が、受け入れられるという回答(24%)を2倍以上上回っている。一方、反対する党派の公人の死を喜ぶことは「常に、あるいは大抵は容認できる」と回答したのは、保守派では4%、中道派では7%となっている。
この調査結果を見て「左派は政治的暴力を容認している」と主張する人がいるが、上記の調査結果をどう評価するかは非常に難しい。この数字は今回の事件の直後に行われた調査の結果である。過激な事件が発生した際には、自らの陣営が被害にあったと考える人は暴力に反対する声明を出すのは当然だろう。
直前に発生した暴力の被害者が自陣営か他陣営かによって変わる傾向もありそうだ。YouGovは22年以降、政治的暴力に関する質問を複数回実施しており、民主党の政治家(メリッサ・ホートマン)に対する銃撃が起こった際には民主党支持者の方が、共和党系の人物(カーク)に対する銃撃が起こった時は共和党支持者の方が、政治的暴力が非常に大きな問題だと答える傾向が強かった。そのため、今回の調査結果だけを取り上げて「左派の方が政治的暴力を容認する傾向が強い」と結論付けるのは妥当ではないだろう。
