改良をやめない文化が未来をつくる
ユニクロの強さは、挑戦する勇気だけにとどまらない。ヒット商品が生まれても「完成品」と考えず、改良を積み重ねる姿勢が企業文化として根づいている。これは単なる商品開発の技術論ではない。柳井が全社員に求める自己否定と革新の精神そのものだ。
代表例が、冬の定番インナー「ヒートテック」である。03年、東レとの共同開発で「薄くて暖かい」という革新的素材が誕生し、瞬く間に冬の必需品となった。
しかし発売直後から「屋外で長時間着ると寒い」「乾きにくい」といった声が寄せられた。そこでユニクロは改良を重ね、「極暖」「超極暖」と保温力を段階的に高めるだけでなく、静電気防止や肌触り、吸湿性など細部を毎年ブラッシュアップした。カラーバリエーションやデザインも拡充し、見えても着られるインナーへと進化させた。
夏の「エアリズム」も同じだ。12年に登場した「蒸れにくく快適なインナー」は、通気性・抗菌防臭・接触冷感など機能を毎年改善し、カットソーやポロシャツなど日常衣料へも展開。コロナ禍ではエアリズム素材のマスクをいち早く市場投入し、生活様式の変化に即応した。さらに寝具への応用など、新領域開拓も怠らない。
ユニクロの挑戦は商品にとどまらない。店舗体験、オンラインサービス、物流・サプライチェーンに至るまで、「昨日より良く」を徹底する改善文化が根づく。失敗や顧客の不満は、組織全体で学ぶ対象であり、改善の種となる。だからこそ、数多くの失敗も単なる挫折ではなく、次の挑戦のステップとなる。
柳井が「CHANGE OR DIE」と発した11年、ファーストリテイリングはリーマンショック後の回復期にあった。国内業績は好調だったが、柳井はそこに潜む油断を見抜いていた。
全社員に「変化に対応できなければ生き残れない」という危機感と、「自分たちの手で未来をつくる」という責任感を植え付けたかったのである。この精神は経営トップ一代で終わらず、次世代リーダーや現場スタッフまでが共有すべき“行動規範”として、いまも息づく。
重要なのは、全社的な大改革を急ぐことではない。象徴的な一歩を踏み出すことだ。既存商品やサービスのわずかな改善でも、顧客体験を変える挑戦でもよい。
その一歩が、組織を未来へ動かす原動力になる。安定を願う心は自然だ。しかし、安定に甘えることなく、昨日より良い今日をつくり続けることこそ、真の商いである。
柳井正が掲げた「変わるか、死ぬか」という言葉は、ユニクロだけの哲学ではない。変化の時代を生き抜くすべての事業者、すべてのリーダーへの普遍的なメッセージである。
そして、その挑戦を可能にするのは揺るぎない事業理念だ。あなたの生涯をかけるに値する理念を胸に、まずはあなた自身が今日、どんな小さな一歩を踏み出せるかを考えてほしい。その一歩が、組織と社会を変える力になるのだ。
今日の挑戦を選べ
現状を破る一歩の先に
あなたが望む未来はある
