2025年12月6日(土)

勝負の分かれ目

2025年10月16日

新興企業の参入――楽天が開いた扉

 新潮流の口火を切ったのはヴィッセル神戸だった。楽天グループは04年から神戸の主要企業スポンサーとしてクラブを支援してきたが、14年に全株式を取得。元スペイン代表アンドレス・イニエスタら世界的スターの獲得で注目を集めるなど、クラブのブランド力を国内外で飛躍的に高めると、大迫勇也や武藤嘉紀など、実績と経験が豊富な選手たちを獲得し、”バルセロナ化”を進めてきた。一時はJ2降格危機に陥ったが、23年にクラブ初のリーグ優勝、さらに連覇を果たしている。

ヴィッセル神戸は、大迫勇也(右から2番目)や武藤嘉紀(右から1番目)ら海外リーグでも活躍した選手を獲得する強化策でリーグ連覇を飾った(ヴィッセル神戸 J1リーグ連覇・二冠達成記念特設サイトより)

 楽天の狙いは、単なるスポーツビジネスにとどまらず、グローバルブランドの発信拠点としてのヴィッセル神戸である。営業収益47億円に対し人件費64億円という年もあり、企業としてのブランド価値を優先した経営方針が特徴的だ。サッカーを通じて企業の理念を発信し、社員や消費者のエンゲージメントを高めるという、まさに“新時代のクラブ経営”を体現している。

 17年にはジャパネットホールディングスがV・ファーレン長崎を完全子会社化。当時クラブは資金難に陥り、給与未払いの危機に直面していた。地元企業であるジャパネットが全株式を取得し、創業者の髙田明氏が社長に就任。クラブ経営を再建するとともに、「サッカーで街を元気にする」という理念を掲げた。

 その後はクラブと地域を一体化させたスタジアムプロジェクトを推進し、ホテル・ショッピングモール・公園などを併設する複合施設型の新スタジアムを建設。単なるクラブ運営にとどまらず、地域活性化のモデルケースとして全国的な注目を集めている。

デジタル戦略で挑む――サイバーエージェント、メルカリ、ミクシィの台頭

 この10年前後で、Jリーグの経営構造において存在感を増してきたのが、デジタル企業による参入だ。クラブの経営刷新を「データ」と「マーケティング」で進める動きは、この数年で一つの潮流となっている。

 その先駆けが、18年にFC町田ゼルビアの経営権を取得したサイバーエージェントである。チーム強化と並行して、デジタルマーケティングの知見を生かしたファンサービスやグッズ販売のデジタルトランスフォーメーション(DX)化を推進。YouTubeやSNSを活用したブランディング、オンラインショップの最適化など、IT企業ならではのアプローチを展開した。

 一方で、クラブ名やロゴ変更をめぐる議論が巻き起こったり、将来的な都心移転がしばしば話題になるなど、企業主導の改革がクラブの伝統的なアイデンティティに、少なからず影響を与えるリスクも浮き彫りにした。新興企業の積極性と地域性の調和――その難題を象徴する事例と言える。


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