2025年12月13日(土)

勝負の分かれ目

2025年10月16日

 翌19年には、フリマアプリ大手メルカリが鹿島アントラーズの運営会社を買収。同社会長でありクラブ社長でもある小泉文明氏は、IT的発想で経営を刷新し、データドリブンなマーケティングを導入した。

 コロナ禍では2階席1万6000席を無料招待として開放し、登録制による顧客データをリピーター戦略に活用。さらにECサイトをグローバル基盤「Shopify」に移行し、物販の効率化を進めた。小泉氏は「5~10年で年間売上100億円」を掲げ、スタジアムを軸にパートナー企業との共創を推進している。

メルカリは、スタジオのネーミングライツも取得した(同社HPより)

 18年のACL制覇を最後にタイトルから遠ざかっていた鹿島だが、鬼木達新監督のもとで現在J1首位を走り、メルカリ体制初のタイトル獲得が目前に迫っている。現場の結果とクラブの経営が全て連動するわけではないが、新進気鋭のデジタル経営と競技面の成果が噛み合う1つの成功例になるかどうか、注目される。

 22年には、FC東京が母体である東京ガスなど主要7企業をメインとした経営グループから、過半数の株式を取得したミクシィが経営権を持つことに。SNSやスマホゲームで培ったマーケティング力を武器に「首都・東京にふさわしいクラブ」を掲げて組織改革を進めている。賛否両論あるエンブレムの変更もその一貫だ。

 また第三者割当増資による資本強化を経て、スタジアム体験の価値向上やデジタルファンコミュニティの構築を推進。観戦の“場”を提供するだけでなく、観戦という“時間”そのものの体験価値を高めるという、IT発想の新たな経営モデルを打ち出した。

 これら三社の事例は、Jリーグがデジタル化とファンエンゲージメントの時代へ移行していることを示している。クラブ運営はもはや「試合を行う場」ではなく、「顧客体験をデザインするプラットフォーム」へ――。その構造変化こそ、Jリーグ経営の次なる進化の核心である。

外資参入――レッドブルがもたらす衝撃

 24年8月には、ついにJリーグ初の完全外資オーナーが誕生した。大手飲料メーカーのレッドブルが、NTT東日本から大宮アルディージャの経営権を100%取得。025年シーズンからクラブ名は「RB大宮アルディージャ」に改称され、伝統的なクラブカラーであるオレンジは一部残されたものの、エンブレムも刷新された。クラブ名の「RB」はJリーグのクラブは企業名を入れられないことからドイツ語の”Rasen Ballsport=芝の球技”を意味するとしている。

レッドブルがオーナーになったことにより、大宮アルディージャのユニフォームやエンブレムは一新された(RB大宮アルディージャ公式Xより)

 経営的な立て直しはもちろん、ドイツ1部の強豪であるRBライプツィヒをはじめ、世界各地にサッカークラブを所有するレッドブル・グループのノウハウが導入されることで、攻守にアグレッシブなスタイルで、日本サッカーに新たな流れを生み出す期待は高い。また若手の育成においても多大な実績があり、大宮で育った若手選手の海外進出も視野に入れているようだ。ピッチ内外でのポジティブな改革が注目される一方で、アイデンティティに関わる問題においては批判的な声があるのは仕方のないところだ。


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