日本のSF全盛時代から
中国SFの興隆へ
でも、私が幼い頃の日本のSFもディックに劣らず、すごかった。小松左京、筒井康隆などの作品は全て読みました。小松左京の『日本沈没』が73年、続いて筒井康隆の『日本以外全部沈没』が出ます。当時、本屋のSFコーナーは輝いていた記憶があります。
当時、もう一つ印象に残っているのが、スタニスワフ・レムの『ソラリス』です。ポーランド出身の作家ですが、第二次世界大戦後、ソ連の傀儡国家となった中の61年に発表された作品です。なぜか惑星が生きているという設定で非常に難解です。哲学書といってもいい。
フランク・ハーバードの『デューン 砂の惑星』(65年)という作品も好きですが、これを原作にした映画『デューン 砂の惑星PART2』が2024年に公開されて、世界興業収入が7億ドルを超え、第3弾の制作も決まっています。ちょうど60年前の原作の作品が現代でも大ヒットしているのです。
SFが盛り上がっている国や地域では、新しい発見や発明など、イノベーションが生まれやすいというのが私の仮説です。まさに当時の米国や日本がそうでした。その仮説が正しかったと思わされたのが中国人作家・劉慈欣の『三体』シリーズ(06年〜)です。世界的な大ヒットになりました。
中国がGDP(国内総生産)で日本を抜いたのは10年頃です。中国ではEV(電気自動車)やAIなどが急速に発達していますが、まだ二番煎じと考えている人が少なくないと思います。ただし、私が専門とする生命科学の分野では、中国の成長は著しいものがあります。やはり、この仮説は正しかったと思っています。
私の師匠である大隅先生はよく「科学は文化」だと言われていました。研究とは、「何に役立つのか」ではなく、人間の知的好奇心に根差した営みであるということです。
