「でない」表示は危ないメッセージ?
一方、消費者が組み換え食品に不安なイメージをもつのは、豆腐や納豆などに「組み換えではない」との表示があるからだという議論が以前から続いていた。
外資系企業で組織するバイテク情報普及会が21年に2000人を対象に実施した消費者の意識調査によると、遺伝子組み換え作物に対して、「怖い・悪いイメージをもっている」が10.6%、「どちらかといえば、怖い・悪いイメージをもっている」が41.6%と、半分近い人が不安なイメージを持っている。その理由を尋ねると「自然なものではない」「健康への不安がある」が4割前後あったが、約2割の人は「商品に『使用していない』と表示されているからだ」と答えた。
表示消滅でイメージは好転するか
つまり、「組み換えではない」という表示は、「組み換え食品は危ない」というメッセージを伝えていたことになる。では、その危ないメッセージが激減している状況は今後、消費者のイメージを変えるだろうか。
遺伝子組み換え問題に詳しい田部井豊・東洋大学客員教授は次のように述べる。
「20年以上にわたり、多くの消費者は『遺伝子組換えでない』という表示によって、『組み換えは危ない』という誤ったイメージを刷り込まれてきた。それを考えると、そう簡単に不安なイメージがなくなるわけではないだろう。ただ、少なくとも『でない』表示が無くなれば、消費者の不安を助長する要因がなくなり、悪いイメージが広がるのを防ぐ効果はあるのではないか」
田部井氏は大学の講義で学生たちに遺伝子組み換え食品の印象を毎年聞いているが、「危ないから避けたい」とか「できるだけ避けたい」という回答は徐々に減っており、若い世代では肯定的なイメージを持つ学生が多数になっているという。
遺伝子組み換え作物が96年から世界で流通し始めて、来年で30年の節を迎える。日本の食卓ではすでに食用油の原料のほとんどが遺伝子組み換えナタネや大豆などで賄われ、牛や豚などの家畜の飼料もほぼ100%が組み換えだ。肉や卵、牛乳を食すれば、間接的に遺伝子組み換え作物を利用していることになるのだが、そのことがほとんど知られていない。
「組み換えではない」という表示が危険なイメージをつくっていたのは事実だが、その「でない」表示がなくなったからといって、良いイメージが自動的につくり出されるわけではない。今後は肯定的なイメージを作り出す表示を考えていく必要がありそうだ。
