この熱き人々

2014年8月15日

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吉永みち子 (よしながみちこ)

1950年、埼玉県生まれ。85年、『気がつけば騎手の女房』で大宅壮一ノンフィクション大賞を受賞。著書に『母と娘の40年戦争』(集英社文庫)、『怖いもの知らずの女たち』(山と溪谷社)、『試練は女のダイヤモンド』(ウェッジ)などがある。

 「釜ヶ崎芸術大学」もアーティストとして参加することが決まっている。釜ヶ崎芸術大学は、芸術を通して日雇い労働者の支援に取り組むNPOが開設した講座で、森村も指導にあたっている。

 「僕は講師として参加していたけど、生徒の釜のオッチャンのほうが一枚も二枚も上なんです。狂言の講座もあって、オッチャンたちは発声から稽古して、ついに大阪の能楽堂で創作狂言の発表会をやったんですよ。これが狂言の本来の力が見えて相当面白い。オッチャンたちの後で先生たちがやっても、巧いけど面白くない。ここのホールで創作狂言もぜひやりたいですね。釜のオッチャンが子どもたちに教える授業も考えています」

 先生と生徒が逆転し、表現と沈黙が交錯し、子どもと大人が時に位相を変える。しっかり森村ワールドが繰り広げられている。横浜ではディレクターに徹して作品は出品しない森村が美術家として作品を出品したのが、6月からロシアのエルミタージュ美術館で開催されている「マニフェスタ10」。取り組んだコンセプトは「消滅美術館」。

 「このコンセプトは、戦時下のエルミタージュ美術館にとどまった女性館員の姿を描いた『エルミタージュの聖母』という本から。旧レニングラードがナチス軍に攻められた時、150万点の作品を疎開させて、再び戻るまでの100日間、何もない美術館が生まれた。額縁だけが残っている美術館のギャラリーツアーでガイドが説明すると、客が『あれっ? この絵の人の後ろに光輪が見えますね』と言う。何もないのに何かが立ち上がる。何もないけど、何もないのではない。目に見えないものが見える。そういうことができないかなと思っています。横浜でのテーマと密接にかかわるので、出品することにしました」

 横浜とサンクトペテルブルクを舞台に、森村は今、最も忙しく、最も面白い時の中を飛び回っている。

森村泰昌(もりむら やすまさ)
1951年、大阪府生まれ。京都市立芸術大学美術学部卒業、専攻科修了。名画の登場人物や歴史上の著名人、女優などに扮するセルフポートレート作品で内外に知られる。『踏みはずす美術史』(講談社現代新書)など著書多数。

◆「ひととき」2014年7月号より

 

 

 

 

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