2024年12月3日(火)

サイバー空間の権力論

2014年6月19日

 前回の連載ではブラジルのネット憲法とインターネットガバナンスの問題を取り上げた(http://wedge.ismedia.jp/articles/-/3892)。世界ではインターネットの管理・情報の透明性をめぐる議論が加熱している。そんな中、ネット社会の覇権を握っていると言っても過言ではないGoogleに対して欧州裁判所が突き出したのが「忘れられる権利」である。忘れられる権利とは何か、そしてそれは我々に何を示しているのか。

ネット上に残る個人情報を削除する権利

 忘れられる権利(Right to be forgotten)を一言で表せば、ネット上に残る過去の個人情報を削除する権利と言える。それらの中には、自らアップした過去の日記や別れた恋人との情報など、自身で管理可能なものもあるが、中には自分では削除できず、またネットに拡散してしまう情報などもある。一度ネットに上がったものは消えることがないものも多く、削除を希望する人も多い。

 欧州ではプライベート情報を管理するための議論が以前から盛んであった。今から20年近く前の1995年、EUは「個人データ保護指令」と呼ばれる個人情報を保護するためのルールを制定した。これらは当時においても高レベルの個人情報保護を約束するものであったが、その後2012年にはデータ保護指令を改定する「データ保護規則案」を提案。2013年に可決し、今後1、2年をかけて成立させる予定である。このデータ保護規則案にこそ、現在話題となっている忘れられる権利が明記されているのだ。

忘れられる権利を認めた
EU司法裁判所の判決

 2014年5月13日、EU司法裁判所はGoogleに対して、Googleを訴えた原告のスペイン人男性の過去の情報を忘れられる権利として認め、彼に関する一部情報を検索結果から削除させる判断を下した。これは2013年に可決された「データ保護規則案」の成立を前に、忘れられる権利をEUが先取りした形になる。

 事件を簡単に説明しよう。このスペイン人男性は、16年前に社会保障費の滞納から自身の不動産が競売にかけられた過去をもつが、現在ではそうした問題は解決されている。だがGoogleで彼の名前を検索すると、現在でも16年前の記事へのリンクが検索トップにでてきてしまう。このことを彼は差し止めるために訴えを起こしたのだった。


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