もっとも、全てが順調という訳ではない。9月、アルバニージー首相はバヌアツを訪問したが、予定していた協定の合意には達せず、帰国した。バヌアツの閣僚は「重要インフラに対する中国からの投資の可能性を捨てたくない」と述べた。
東南アジア諸国には、違った外交が必要となる。豪州は人権や政治体制につきとやかく言わず、「最も安定した民主主義国の友人」としての立場を強調してきた。それにより豪州は日本と並んで、米国よりも東南アジアの国々から高い信頼を得ている。域内最大のインドネシアとも昨年、防衛協定に合意した。
豪州は、日米印豪4カ国枠組「クアッド」でも重要な位置を占めている。最近トランプとインドとの間で不和が生じているが、10月、インドのシン国防相が訪豪し、豪州との防衛協力を確認した。
アルバニージー首相は、10月20日に訪米する予定だが、豪州の防衛費大幅増額と引き換えに、トランプは米英豪3カ国による安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」協定への支持を再確認するだろうとみられている。
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米豪首脳会談の3つの成果
豪州・PNG相互防衛条約(通称「プクプク条約」)は、極めて重要だ。10月6日、アルバニージーとマラぺがキャンベラで正式に署名した。今後両国の国内手続きを経て発効する。
これまでの両国防衛協力協定を格段に強化する。新たに「いずれか一方への軍事攻撃を双方の安全保障と太平洋の安全保障への危険と見做し、夫々の憲法手続きに従ってかかる共通の危険に対処することを宣言する」(4 条(3))と述べる。本格的な相互防衛条約だ。
そのために相互運用やドクトリンの調整など両国軍の統合を進めるとともに、豪州軍は最大1万人のPNG軍人を受け容れることを規定する。さらに、「双方は、この条約の実施を妥協させる第三国との活動、合意や取極めを行わないことに合意する」(5条(4))と規定する。強力だ。
9月、中国はPNGに条約に署名しないよう警告していた。今後、豪州はフィジーやトンガとも防衛協定の締結を推進していく。
10月20日の米豪首脳会談は成功した。第一の成果は、トランプが米英豪3カ国の「AUKUS」を「全速力で前進」させると宣言したことだった。トランプ第二期政権は今年、バイデン政権が発足させたAUKUSにつき、その見直しを示唆していた。
米国は2030年代初頭から5隻のバージニア級原潜を豪州に供与することになっているが、米国ではその原潜建造能力に供与の余力があるか等が問題となっていた。豪州は、既に多額を米国の造船能力に投資し、豪州要員の訓練等を幅広く進めている。トランプがこの計画にコミットしたことは、米豪関係のみならず、日本にとっても良いことだった。
