2025年6月16日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年5月19日

 フィナンシャル・タイムズ紙コラムニストのギデオン・ラックマンが、4月28日付け論説‘How Ukraine could break the western alliance’で、「西欧同盟は崩壊する。今や米欧はロシアの脅威と民主主義の擁護につき基本的な考えを異にしている」と述べている。主要点は次の通り。

(masterSergeant/gettyimages・dvids)

 かつて、ロシアへの恐怖は西側同盟を結束させた。今やそれは、西側同盟を分裂させかねない。北大西洋条約機構(NATO)は1949年、米国、カナダ、そして欧州によりソ連抑止のために結成された。しかし、今もしトランプ政権がウクライナにロシアとの戦争で部分的な敗北を受け入れるよう強制するならば、欧州は米国がロシアの侵略に褒美を与えようとしていると見なすだろう。NATOが直面する脅威やそれへの対処につき一致できなければ、同盟全体が危機に陥る。

 大西洋同盟は、1956年のスエズ動乱やベトナム戦争、イラク戦争等何十年にもわたって深刻な意見の相違を乗り越えてきた。常に、最後は米欧が同じ側に立っているという理解があった。米欧同盟は、共通利益と価値観に基づいていた。

 だが、その共通理解は今崩壊しつつある。ウクライナ戦争の間違った結末は、共通理解を完全に崩壊させるかもしれない。米欧は異なるウクライナ和平案を推進している。欧州は、トランプの提案の重要な要素、特にロシアによるクリミア併合の法的承認を拒否している。

 意見の相違の根底には、国際安全保障に係る根本的な見方と、次の戦争の脅威が何処から来るのかという見方の違いがある。欧州の人々は、ウクライナへの侵略に褒美を出すようなことをすれば、プーチンは次にバルト三国を皮切りに欧州の他の国々を攻撃する可能性が格段に高まると考えている。トランプ政権の見方は全く異なる。

 米国は、ロシアとの直接衝突に巻き込まれることを懸念する。トランプ自身も、第三次世界大戦の危険について繰り返し警告している。

 安全保障の見方の違いは、もはやウクライナ戦争終結の仕方に留まらない。トランプは、2つのNATO加盟国の領土を脅かしている。トランプは、デンマークの自治領グリーンランドを米国に編入すると繰り返し、カナダを「米国の51番目の州」にしたいとの願望を何度も述べている。

 こうしたトランプの権威主義的な本能やNATO加盟国への脅し、そしてプーチンへのあからさまな共感等を併せて見れば、NATOが今でも共通の価値観に基づく同盟だとは言い難い。

 トランプ政権と欧州は今や、西側の価値観について二つの相反する考え方を主張している。バンスとトランプは、民族国家主義、文化的保守主義、非リベラルを、欧州は、国際主義、法とリベラルな制度を説く。


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