2025年12月14日(日)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2025年12月4日

 日本の場合は若者に至るまで現役世代の多くは現場仕事よりも、オフィスワーク、つまり事務仕事を希望する。これは教育制度ともリンクしており、数学の真剣な学習から早い時代に離れた私立文系型人材がこれに対応している。一方で、工場労働や建設の現場などでは人手不足が極端に進行する中で、非英語圏からの移民労働に依存している。

 つまり、現時点では日本の場合、ホワイトカラーとブルーカラーの逆転現象というのは、極めて限定的だ。高い教育を受けた労働力は、AIやDXからも周回遅れの紙とハンコに縛られ、社内政治のためのプレゼン用スライド作成に疲弊している。一方で、英語とサイエンスを駆使できる工場労働者だとか、環境工学に適応した建設労働者などは育っておらず、外国人労働に依存している。

このままではジリ貧に

 そう考えると、アメリカが直面しつつあるAI革命の痛みとか、その結果としてのホワイトカラーとブルーカラーの逆転現象というのは、日本の場合は社会的に発生していないと言える。これは、当面の社会や雇用の安定ということでは、良いことなのかもしれない。けれども、国全体の生産性ということでは、全くもって逆行であり、このままでは一人あたりの国内総生産(GDP)や実力としての通貨の価値などは、一段とジリ貧になってしまうであろう。

 全てを一気に変えることは難しいかもしれない。けれども、気がついた企業から、まずは社内コミュニケーションの手間を簡素化するとか、アドミ業務を一気に標準化するとか、社内改革を進めてみてはどうだろうか。

 また大学教育においては、文系学部を理系に改組する際に、理系人材を「サイエンスと英語」のできる、つまり21世紀的な高付加価値工場労働に対応した人材として育てるなどの工夫を求めたい。

 その意味で、米国で起きているホワイトカラーとブルーカラーの逆転現象というトレンドは、日本経済にとっても他人事ではない。まずは、個別の成功事例を積み上げることで、GDPや通貨価値のジリ貧を食い止める時期ではないだろうか。

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