それが可能なのは新聞をおいてほかにはない。日中関係悪化の長期化は不可避であり、新聞には中国の情報戦を打ち破る先頭に立ってもらいたい。
中国の「沖縄カード」を甘く見てはいけない
まずは沖縄の問題だ。今回の高市首相発言に反発し、中国共産党機関紙・人民日報系の「環球時報」は11月19日、「琉球学の研究はなぜ必要か」と題した社説で、「琉球諸島の帰属は歴史的、法的な議論が常に存在している」と主張、中国発のSNS上では「琉球は昔から一度も日本の国土になったことはない」などの発信が繰り返されている。
さらに、中国国営の英字紙「チャイナ・デイリー」は12月2日、「琉球王国が歴史的に中国の属国だったことや日本による琉球侵略」を示す「重要な証拠」が中国・遼寧省の博物館で公開されたとの記事を掲載している。
もちろんこれは、日本が台湾に口を出した以上、中国は沖縄に口出しするという報復ではあるが、中国の「沖縄カード」を甘く見てはいけない。中国は高市発言を絶好のチャンスと捉え、尖閣諸島を含め、沖縄の日本帰属に疑義を呈するプロパガンダ(政治宣伝)を国際社会に発信し続ける可能性があるからだ。
中国の報復に対し、木原稔官房長官は「中国の報道にコメントする必要はないと思います。なぜなら、沖縄がわが国領土であることには何ら疑いもないからであります」と、極めて丁寧な口調で反論している。
冷静な対応は、これ以上、中国と事を荒立てたくないとの思いからだろう。だからこそ新聞による取材と事実に基づいた国内外への発信が必要なのだ。
中国の主張をファクトチェックせよ
中国は日本が尖閣諸島を国有地化した直後の2013年、「人民日報」に「沖縄の帰属は未解決」とする中国人研究者の論文を掲載しているが、ここ数年は、尖閣や台湾問題と絡めて沖縄への野心を隠さなくなっている。
23年5月、都内で開かれた大手紙主催のシンポジウムで、中国社会科学院の日本研究所長が「(沖縄の日本帰属を決めた)戦後のサンフランシスコ講和条約は見直されるべき」と発言、翌6月の「人民日報」は、習主席が「福建省の福州市には琉球館と琉球墓があり交流の根源は深い」と発言したことを1面トップで取り上げている。さらに大連海事大学に「琉球研究センター」を設立し、中国の影響下にあった琉球を日本が一方的に自国領に編入したといった中国の物語(ナラティブ)を発信している。
本来であれば、ここまで中国が増長してくる前に政府が歴史的な事実を積み重ね、きちんと提示すべきであったが、高市首相発言をめぐる対立下では困難だろう。今すぐに取り組むべきは新聞によるファクトチェックだ。
琉球史が専門の琉球大学名誉教授・高良倉吉氏は、編著『沖縄問題』の中で、琉球学の先達である伊波普猷(いはふゆう)氏の研究足跡をたどり、「琉球王国を形成した人びとは日本文化をそのルーツとする。したがって、沖縄と日本の間には文化的な親和性、一体性がある。琉球語は日本語の系統に属する言語だという事実がそのことを証明している」などと書き記している。
明治期の琉球処分(沖縄県の設置)についても「近代日本への編入は、侵略行為として行われたものではなく、文化的親和性、一体性を持つ両者の統一、あるいは合一として起こったもの」と言葉をつないでいる。
