2025年12月14日(日)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2025年11月26日

 「中国人民のボトムラインを挑発しようとすれば必ず中国側の痛烈な反撃を受け、14億を超える中国人民が血肉をもって築いた鋼鉄の長城の前で頭を割られ血だらけになるのだ」

中国外交部報道官の名で11月14日に公表された「血だらけ」云々の言葉は、2021年7月1日の中国共産党創建100周年記念習近平演説が元にある。画面右は演説の一部を「語録」として伝える「人民網」のスマホ向け画像で、下3行が外交部によって日本語訳された

 将来ありうる台湾有事に関連した高市早苗首相の「存立危機事態」をめぐる国会答弁を契機として、中国が日本に対して経済的威圧を含む様々な圧力を加え、外交部・国防部がこぞって「中国の怒り」を大宣伝していることが広く注目を集めている。彼らはとりわけ、一定のテンプレートに中国の主張や非難を大々的に示すことにより、中国の立場を日本人や諸外国に見せつけている。冒頭に掲げた一文は、その中でも最も印象的なものといえよう。

 また中国外交部の劉勁松アジア局長は、日本側の立場を伝えるために訪中した外務省の金井正彰・アジア大洋州局長と会う際に「五四青年服」と呼ばれる服装を着て応対し、メディアを待機させた目の前でポケットに手を突っ込んで見送ったことが多大な注目を集めた。

 しかし筆者のみるところ、中国側のこうした意思表示のやり方はことごとく失敗し、裏目に出ている。

氾濫した「中国の主張」

 まず中国外交部・国防部が乱発したメッセージ画像について言えば、多くの日本人は突如押し寄せる未知のフォーマットに半ば唖然としながらも、逆にこのフォーマットが醸し出す雰囲気に興味関心を抱いて遊び始めた。日本のネット上には「外交部風ジェネレーター」なるものが出現し、中国の主張への反論から日常生活のメモ帳代わりに至るまで、あらゆる失笑と皮肉を誘う画像が瞬間風速的に氾濫した。

 しかし中国では、この手のフォーマットを民衆が軽々しく使うことは決してなく、断じてあってはならない。

 筆者の見るところ、定型フォーマットに中国の「正しい立場」を載せるやり方は、中国共産党・中華人民共和国の下でのプロパガンダ手法の典型である。毛沢東時代には毛沢東の顔が描かれた定型フォーマットに記された「毛主席語録」が大量に流布したし、スマートフォンを誰もが所持する時代になると、党・政府の宣伝や、重要事件に関する公安当局の説明(警情通報)の類が定型フォーマットに記されて、人々のスマホ画面に大量に送りつける体制が整っている。

日本向けプロパガンダ雑誌『人民中国』より。1968年・左9月号・右2月号……毛主席語録の定型スタイルと、毛沢東の最高指示を奉る人々。「軍民が一心同体のように団結すれば、天下の誰が敵であろうか?」

 そして今般も中国外交部・メディアは、国内のあらゆるスマホに向けて大量の日本批判(TikTok動画を含む)を流している。今や中国当局だけでなく中国の人々は、この手法がそもそも日本で通用しないことを知って、逆に驚いていることであろう。中国の人々が連日の日本批判大宣伝に飽き飽きしていることは、中国社会の諸問題を伝えるXアカウント「李老師不是你老師」の内容から明らかである。


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