2025年12月14日(日)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2025年11月26日

 去る10月末に韓国で開催された米中首脳会談の後、トランプ氏が「あんなに怯えていた人間を見たことはない」とコメントしたことは、習近平氏の意向を常に慮る中国の外交・安全保障関係者の雰囲気を直截に示すものといえる。

 だからこそ、台湾問題の影響が日本に及ぶ可能性をめぐる高市首相の発言は、なおさら習近平氏の権威と方針に差し障る以上、全力を以て「日本が誤りを認める」構図に持って行かなければならないのであろう。11月19日付け韓国『中央日報日本語版』は、今般の日中対立における中国側の立場として、中国共産党中央党学校機関紙『学習時報』元編集長・鄧聿文氏の「高市首相が慶州での中日首脳会談とは別に台湾に関する発言を行い、習近平主席の権威に挑戦した」という発言を紹介している。筆者もつまるところ、中国の過剰な反発は、かねてからの「台湾統一」という主張が習近平独裁の現実によって肥大化した結果と考える。

台湾有事と尖閣諸島の侵略は皆無ではない

 本稿の冒頭に掲げた、日本で驚きをもって捉えられた「長城で頭を割られて血だらけ」の一文も、そもそも2021年7月1日に天安門広場で開催された中国共産党100周年記念式典における習近平演説の一部分である。このとき習近平氏は「中国人民は、如何なる外来勢力であれ、我々を欺し圧迫し奴隷のように扱うことを絶対に許さない。誰であれこのようにしようと妄想する者は必ず、14億を超える中国人民が血肉をもって築いた鋼鉄の長城にぶつかり、頭が割れて血を流す」と一際語気を込めて叫び、その瞬間天安門広場は地響きのような歓声と拍手に包まれた。

(新華社/アフロ)

 中国外交部は、この究極の愛国主義の雷をわざわざ選んで日本側にぶつけた。しかしそれは全く通用しないどころか、逆に日本人一般の冷笑しか引き起こさなかった。

 このような中、日本側では「対応にボタンの掛け違い等の問題はなかったのか、この緊張は果たして何時まで続き、外交上の落とし所はどのようなものになるのか」が論じられている。

 しかし筆者の見るところ、このような中国側の事情もあって、短期的には落とし所は存在しない。

 そもそも習近平中国は、西側中心のグローバリズムや国際関係のあり方は、その形成に参与しなかった国々の利害を尊重せず、様々な圧迫と欺瞞を繰り返してきたものに過ぎず、新興の大国の声や立場が認められるべきであり、そのような大国の立場に賛意を示した小国に対し、体制の如何を問わず恩恵をもたらすことによって、真に平和な「多極化世界」が成立するのだと繰り返し強調している。そのような立場から「古き良き東スラブ世界」を再構築しようとするロシアに対して「無限の協力」を約束し、ロシアのウクライナ侵略に対して事実上全面的に荷担している。

 現在日本が直面しているのも、ウクライナと全く同じ状況である。

 1970年代に中国が尖閣諸島について「中国の釣魚島」だと主張するようになって以来、中国は必ずと言って良いほど台湾と尖閣を結びつけようとしてきた。中国は例えば、「反ファシスト戦争として戦われた第二次世界大戦の結果、中国が祖国・台湾を回復した」「釣魚島は台湾の一部分だ」という言説を繰り返し並置することによって、日本は「反ファシスト戦争の結果として台湾を中国に還し、一切関与すべきでないところ、台湾の一部分である釣魚島を不法に占拠し続けており、それは反ファシスト戦争の結果を認めない軍国主義復活に他ならない」という類の言説を繰り返してきた。2012年の尖閣事件にあたっても、中国は『釣魚島白書』なるものとともにこの種の主張を声高に叫んだことは記憶に新しい。

『人民中国』1967年3月号……中ソ冷戦ピーク時の「ソ連修正帝国主義打倒!ファシスト的暴行に抗議する!」

 そして習近平政権は「中華民族の偉大な復興」を掲げ、その重要な内容として「核心利益」、すなわち彼らが思い描く領域主権を完全に固め、その内側を単一の「中華民族共同体意識」で満たすことを目指している。2017年以後の新疆ウイグル自治区、19年以後の香港において、強権の極みをふるって厳格な監視社会を構築することで表向き「社会の安定を実現した」のは、その最たる表れである。


新着記事

»もっと見る