2025年12月14日(日)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2025年11月26日

 また南シナ海においても中国は、フィリピンの島々を現在進行形で侵しつつある。残るは台湾海峡の現状を変更することで、列強からの圧迫を受け続けた近現代史の屈辱を完全に過去のものにし、米国と並び立つ中国の「富強の夢」を描こうとしている。

 このような流れに照らせば、近い将来に台湾有事が起こる可能性は皆無であるとは言えない。地政学的環境の変動や国際関係の流れが中国側に有利に傾けば、「台湾の一部分」と称する尖閣諸島も侵略されかねない。

日本が台湾の経験に学ぶべきこと

 したがって今般の中国の対日圧力は、短期的な「中国の面子」「落とし所・妥協」の問題ではないし、ましてや「日本側の対応に問題があり、詫びるべきである」というものでは全くない。習近平氏の下で著しく肥大化した独裁・大国/覇権主義・「失地回復」願望・日本との摩擦の歴史の「完全解決」など、中国ナショナリズムやグローバル戦略全般の文脈の中で捉えられるべきである。

 中国は、当初の宣伝戦や劉局長の態度が日本に深刻視されていないとみるや、中国駐日本国大使館がXで尖閣問題に言及し、中国の傅聡国連大使がグテーレス国連事務総長に宛てて、中国の賛同もあって既に死文化したはずの「旧敵国条項」を持ち出し、「日本が武力で台湾海峡情勢に介入すれば侵略行為であり、中国は国連憲章と国際法が認める自衛権を断固として行使する」といった書簡を送るなど、国際社会を巻き込んで日本への圧力をいっそう強めている。

 このような状況があるからこそ、日本の国家主権をめぐる立場について、日本政府が論理一貫した説明を続けることは当然のことであるし、ますます国際社会の中で建設的な役割を果たし、かつ圧迫に屈せず平穏な生活に務めることが重要である。1996年の台湾総統選挙を中国がミサイルで威嚇し、実際に台湾の目の前の海域にミサイルが撃ち込まれた際にも、台湾の人々は全くいつも通りの生活を送り、華語圏初の総統直接選挙を平和裡に成功させることで、自らの国際的評価を高めた。

 ゆえに今や日本は台湾の経験にも学ぶべきである。そうせずに日本の内部で「中国の体面・核心利益」を損ねたことに遺憾の意を表明し発言を取り下げるよう求める動きが起こること自体が中国の思う壺であり、彼らが展開する「認知戦」の目標そのものなのである。

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