2025年12月8日(月)

BBC News

2025年12月8日

カンボジアの国境の州から多くの住民が避難している(8日)

タイの王立陸軍は8日、カンボジアと係争中の国境沿いで「複数の地域にある軍事目標」に対する空爆を開始したと発表した。

タイ側は同日朝、カンボジア軍の攻撃により兵士1人が死亡し、8人が負傷したと説明。空爆はこの攻撃を受けたものだとしている。

一方カンボジアは、タイ側が先に攻撃を仕掛けたと主張。カンボジア軍は反撃を控えたと主張している。カンボジア側ではこれまでに負傷者1人が確認されている。

両国は、国境を越えて重火器を発射したと互いに非難している。また、両国で数万人が避難を求められている。

両国はさらに、7月の衝突を受けてマレーシアが仲介し、10月にドナルド・トランプ米大統領のもとで署名した停戦合意に、相手側が違反したと、互いに非難している。

タイのアヌティン・チャーンウィラクン首相は、同国は「決して暴力を望んでいない」が、「主権を守るために必要な手段を用いる」と述べた。

記者会見の中でアヌティン首相は、衝突を管理する「政府と軍(の能力)を信じてほしい」と国民に呼びかけた。

一方、カンボジアのフン・セン前首相はフェイスブックへの投稿で、タイの「侵略者」が「ありとあらゆる兵器を使って(中略)カンボジアを報復に引き込もうとしている」と非難した。

また、停戦合意と、10月に双方が署名した共同平和宣言に、タイが違反していると非難。「対応のためのレッドラインはすでに設定されている。すべての指揮官に対し、全ての将校と兵士にそのことを教育するよう求める」と述べた。

新たな緊張は7日に始まった。タイ軍はこの日、北東部シーサケート県で、カンボジア軍との35分間の武装衝突があったと報告。その後、シーサケート県と、国境沿いのブリラム、スリン、ウボンラーチャターニー3県に避難命令を出した。

8日には、カンボジア側がウボンラーチャターニー県の一地区で発砲したと非難した。

一方のカンボジアは、同国北部プレアヴィヒア州とオッドーミアンチェイ州の国境沿いで、タイ軍から攻撃されたと発表した。

タイとカンボジアの係争は100年以上前、フランスによるカンボジアの植民地支配後に、両国の国境が画定された時期にさかのぼる。

両国の関係が正式に敵対的になったのは2008年で、カンボジアが係争地にある11世紀の寺院を、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産に登録しようとしたことが発端だった。この動きに対し、タイ側は激しく抗議した。

それ以来、両国の間では断続的に衝突が発生し、兵士や民間人に死傷者が出ている。

タイ空軍は8日の空爆について、カンボジア国内の軍事施設のみを標的とし、民間人の負傷を避けることを「最優先」したと主張。さらに、この空爆は、タイ国境地域を脅かす可能性のあるカンボジア軍の活動に対する対応だと、軍は最新の発表で述べている。

「空爆は極めて精密で、前線付近の軍事目標のみに集中した。民間人には影響を与えなかった」と、タイ軍報道官のウィンタイ・スワリー少将は記者会見で述べた。

タイ軍はまた、カンボジアによる迫撃砲攻撃の様子だとする映像を公開した。

一方のカンボジア側は、発砲しているのはタイだと述べ、反撃は一切していないと付け加えた。

カンボジア当局者は、オッドーミアンチェイ州で民間人3人が負傷したと発表。同地域の副知事によると、この3人は「タイ軍による攻撃で」負傷し、医療搬送が進行中だという。

カンボジアはまた、タイ兵が2地域の村に「発砲し」、負傷者が出て家屋が焼失したと主張している。

ソーシャルメディアでは、空爆のニュースが伝えられた後、カンボジア国境沿いの学校で、保護者が子どもを迎えに殺到し、混乱する様子を映した動画が拡散された。

その報道に対する賞を複数得ている元ジャーナリストのメック・ダラ氏は、複数の映像と共に、「国境で爆発が起きた後、家族が緊急で子どもを学校に迎えに来ている(中略)この子どもたちは何度、ショッキングな環境にさらされなければならないのか」と書き込んだ

BBCは、これらの動画を独自に検証していない。

マレーシアの首相が「最大限の自制」求めると

マレーシアのアンワル・イブラヒム首相は、戦闘の勃発に「深く懸念している」と述べ、双方に「最大限の自制」を求めた。

イブラヒム氏はXへの投稿で、「再び戦闘が起きれば、両国関係の安定化に向けて積み重ねてきた慎重な努力が水泡に帰す恐れがある」と強調した。

マレーシアはこれまで、タイとカンボジアの紛争における有効な仲介役と見なされている。

先月の衝突後、タイが7月の共同平和宣言の履行を停止すると一方的に発表した際にも、マレーシアは両国間の新たな協議を開催する用意があると申し出た。

現在もアンワル氏は外交への回帰を呼びかけ、「我々の地域は、長年の係争が対立の連鎖に陥ることを許容できない」と述べている。

タイとカンボジアの間の激しい国境紛争は、7月に5日間の戦争に発展。この時は少なくとも48人が死亡し、推定30万人が避難したことが明らかになっている。

両国は7月末にマレーシアで会談し、即時停戦で合意した。この会談は、トランプ氏が両国に対し、米政府との貿易交渉の前提条件として停戦に合意するよう求めたことを受けて開催された。協議はマレーシアのアンワル首相が仲介した。

10月の東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議で開催された共同宣言の署名式典でトランプ氏は、この宣言を「クアラルンプール和平協定」と呼び、自身が和平を仲介したとアピールするとともに、「東南アジアにとって記念すべき日だ」と述べた。

しかしそのわずか2週間後には、カンボジア国境付近で地雷が爆発し、タイ兵2人が負傷。これを受けてタイは、合意の履行を停止すると発表した経緯がある。

一方のカンボジアは、自国は合意を順守していると主張し続けている。カンボジアは、停戦の仲介に果たした役割を理由にトランプ氏をノーベル平和賞に推薦している。

(英語記事 Thousands flee Thailand-Cambodia border after deadly clashes and air strikes

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/cvg83gv5mmeo


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