2025年12月19日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年12月19日

 トランプは数日中にウクライナが受け入れることを要求した。上院議員マイク・ラウンズ(共和党)は上院の超党派の会談で、ルビオは計画はロシアの提案だと言ったと報告した。しかし、数時間後、ルビオは前言を翻し、計画は米国が「書いた」とSNSで述べた。

 政権がじたばたしている状況は、政権に特徴的な無能力以上のものを反映しているのかもしれない。暗さを増す世界において、繫栄する民主主義の全体的な弱さが明らかになりつつある。

 プーチンは、ウクライナとベネズエラ沖合でのボート攻撃に関して、トランプ政権は話に一貫性を持たせることが出来ていないことにも気付いたに違いない。このことは恐らく、サー・ウォルター・スコットが「Oh, what a tangled web we weave, when first we practice to deceive.(ああ、我々は欺こうとする時、なんともつれた網を織るものか)」と指摘した理由によるものである。アメリカ人は欺かれているのだ。

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議会を無力化し、国民を煙に巻く

 この論説は、カリブ海で進行中の麻薬密輸ボートへの攻撃作戦の最初の作戦の際(9月2日)、ヘグセス国防長官の「全員を殺害しろ」との命令により、沈没したボートの残骸にしがみつく生存者2人を特殊部隊が殺害したとされる一件を取り上げ、倫理観の荒廃したトランプ政権の行動には吐き気を催すとしている。この論説がウクライナ解体のための計画だとするトランプ政権の28項目の提案も取り上げ、いずれの側の提案であるのか等、その性格を巡る見苦しい混乱を指摘している。

 その不始末を糊塗するために政権がじたばたする状況には、単なる無能力以上の問題があるのではないかとの言及に続いて書かれている部分については、十分に理解し得ないが、ヘグセス国防長官にしろ、ルビオ国務長官にしろ、恥を知る能力の欠如が原因ではないかとの辛辣な批判には共感を覚える。

 他方、論説の末段では、サー・ウォルター・スコットを引用して、トランプ政権の混乱した行動は国民を欺くためだと結論づけているようである。そういう側面は否定出来ない。

 議会が無力だということもある。国民は煙に巻かれている。それが政権にとって好都合であるに違いない。

 カリブ海での麻薬密輸対策にしては大袈裟な軍事力展開の真の目的はベネズエラにあるらしいが、トランプが国民に説明したことはない。ウクライナ和平にしても、トランプが和平構想の軸となる哲学を国民に説明したことはない。

 カリブ海の一件について補足をしておきたいが、9月2日の密輸ボートを一回目の攻撃で炎上・沈没させた後(この攻撃自体が国際法上恐らく違法である)、ヘグセスの「全員を殺害しろ」との口頭の命令に従うために、特殊部隊の司令官フランク・ブラッドリー(海軍大将)が二回目の攻撃を命じ、生存者2人が殺害されたとの報道(11月28日付のワシントン・ポスト)が発端である。この殺害は違法と思われる。


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