一方、トルコの出国税は性質がやや異なり、自国民に対する「Exit Fee」として設定されている点が特徴的である。25年9月に出国税が1000トルコリラ(TL)へ引き上げられており、約4000円に相当する。性質としては自国民の渡航に対する行政手数料の色合いが強い。
これらと比較して、日本の「国際観光旅客税」は極めてシンプルで、出国者1人あたり1000円の固定額である。航空・船舶を問わず、日本から出国するすべての人が対象となる。金額だけを見れば、主要観光国の中では非常に低い水準に位置する。
欧州・観光新興国では滞在側の課税も
イタリア、スペイン、フランス、ギリシャ、メキシコといった主要観光国では、観光客が「滞在すること」そのものに課税する仕組みが広く採用されている。これは宿泊税(accommodation tax)や入域税(entry tax)と呼ばれるもので、文化財保全、清掃、警備、人件費、混雑管理など、オーバーツーリズムによる地域負荷を直接補填する財源として設計されている。
まずイタリアでは、「都市宿泊税(Imposta di soggiorno)」がほぼ全土で導入されており、地域によって税額が大きく異なる。たとえばローマでは1泊あたり4〜10ユーロ/泊(約720〜1800円)が標準と言われる。さらに高級ホテルでは上限近い税額が設定されることが多く、滞在日数に応じて課税額は積み上がる。
フランスでも「滞在税(taxe de séjour)」が一般化しており、パリでは宿泊ランクに応じて1泊あたりおおむね1〜10数ユーロの観光税が課される。パリを中心とした地域圏であるイル=ド=フランス地域の200%上乗せにより、高級ホテルでは15ユーロ超となるケースもある。
観光新興国メキシコでは、カンクンなどの観光地があるキンタナロー州では、外国人観光客に対してVISITAXと呼ばれる税(現在283ペソ、約3000円)が課される。訪問者数が急増する中で、治安維持・ビーチ清掃・自然環境保護への負荷を補うための制度と言われる。
欧州および観光依存度の高い国々では、滞在者に対して直接課税し、地域の観光負荷を補填する制度が強化されつつある。宿泊税や入域税は、観光の外部性のうち「滞在行動(宿泊・移動・利用)」によって生じるコストを負担者に還元する仕組みであるため、受益者負担原則や外部性内部化の観点から政策整合性が高い。
世界は「出国税+滞在課税のミックス」が広がりつつある。日本に必要なのは、出国税か入国税かの二択ではなく、出国側の国税で広域的な財源を確保しつつ、混雑・インフラ負荷・環境悪化など地域固有の課題には宿泊税や入域料を充てるというような、「どの税を、どの目的に、どの比率で組み合わせるか」という財源アーキテクチャの設計である。
出国時課税方式のメリットとデメリット
出国時課税方式は“簡単に取れる税”であり、短期財源としては優秀である。第一に、まず技術的・行政的に導入しやすく徴収コストが低い。航空会社の発券システムに上乗せするだけで済み、徴収事務を新設する必要がない。財務省の立場からすると、最も効率よく安定した税収が得られるものの一つである。
第二に、徴税漏れがほぼゼロで、税収が安定する。対象は「日本を出国するすべての人間」であり、制度が極めてシンプルだ。予算編成において収入見通しが立てやすい。
