2025年12月16日(火)

Wedge REPORT

2025年12月16日

日本の“観光財源アーキテクチャ”の再設計

 世界の観光大国の制度構造を踏まえると、日本が採るべき方向性は例えば下記になるだろう。

 短期として、出国税による段階的な増加で即効性を確保する。3000円への引き上げは、海外渡航への悪影響が大きいため、その影響を見極めつつ段階的に引き上げてはどうだろう。

 インバウンド上位国の金額を勘案すると一層のアップを狙ってもよい。その際、日本人と外国人で価格差をつけるとう議論が出勝ちだが、実は国籍(Citizenship)ベースで税額に差をつけることは難しい。シンガポールのように国籍による区分ではなく、居住者・非居住者の別や、短期観光客に限定した設計とすることで、制度的に正当化しやすくなるだろう。ただし、シンガポールは居住者の線引きが比較的明確で容易であること、現行の日本の仕組みだとそれを実施するコストがかなり高くなることは意識しておく必要がある。

 中期として、日本版のESTAであるJESTA(Japanese ESTA)型の入国課金制度を導入する。米国・EUと同様に、電子認証+事前決済型の入国課金を整備し、観光財源を外需ベースへ転換することが不可欠である。

 地方レベルでは、宿泊税・入域税を拡充し、地域課題の受け皿とする。交通混雑、清掃、人件費、文化財保全など、地域固有のオーバーツーリズム対策は自治体税で対応するのが国際標準である。日本でも京都・金沢・福岡などが宿泊税を導入しているが、さらなる普及が必要であり、かつ定額ではなく定率にしてゆく必要があるだろう。

 国際比較で見えてくるのは、出国税のみの増額は政策目的との整合性という面でも不十分である。日本が観光立国の持続可能性を確保するためには、「出国税(国税)+電子入国認証(入国関連課金)+宿泊税(自治体税)」という三層モデルへの移行が必要である。

 円安で訪日需要が旺盛な今こそ、日本は観光財源の再設計に踏み出すべきタイミングにある。 “政策目的に最も適した税・徴収システム”を組み合わせる設計思想こそが、日本の観光政策を次の段階へ押し上げる鍵となる。

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