2025年12月18日(木)

勝負の分かれ目

2025年12月17日

 結論から言えば、一時的なインパクトがあるのは間違いない。その意味ではニュース価値はあるだろう。しかし、結局は本人の会見で明かされる本人の言葉を聞かないと、詳細はわからないことが多い。

 実は、アスリートも了承のもとで、引退などの進退が先出しの形で書かれることはある。

 記者とアスリートに、長い期間の取材を通した信頼関係がある中で、「引退を次のステップへつなげるために、引退を前向きな気持ちでとらえていることをきちんと伝えたい」「引退よりも、次に進む道のことを注目してもらえるようなトーンにしたいが、記者会見の質疑ではうまく伝わらないかもしれないので、会見の前に自分の言葉で話したい」などのケースだ。

 こうしたスクープは独占インタビューや独占手記も合わせて掲載することで、アスリートが決断に至った心境を詳細に報じることができる。1社や数社のスクープになることで、扱いも大きくなり、アスリートにもメリットはある。

 今回の角田選手の場合、本人に確認の連絡をしたメディアがあったのかが大きな疑問である。インスタグラムを見る限り、角田選手は報道されることを知らなかったのではないだろうか。結果的に「答え」が合っていればいいということではなく、本人の進退に関する記事を出すのであれば、直接、本人に取材をして確認をすればいいだけの話である。

 また、角田選手の引退を報じた多くのメディアはその後、角田選手のインスタグラムを引用する形で「引退報道に言及」「最終的な決断にはまだ至っておりません」という記事を掲載した。メディアが自ら書いた記事を、アスリート本人の言葉で打ち消すという完全な「マッチポンプ」の構図はいかがなものだろうか。

ファンも「本人の言葉で聞きたい」

 先出し報道で思い返されるのが、14年ソチ五輪、18年平昌五輪でフィギュアスケート男子2連覇を飾った羽生結弦さんのケースだ。

 22年北京五輪後の進退が注目される中で、同年7月19日に「決意表明の場」として東京都内のホテルで会見が設定された。

 報道各社には前日に内容は伏せた上でリリースが流れた。メディアは、羽生さんのようなアスリートの今後を表明する会見があることを事前に知ることができれば、放送時間や紙面を空けることができる。

 こうした気遣いがあったとみられての事前リリースだったが、一部のスポーツ紙が会見を待たず、翌朝の一面で、競技者を退き、プロへ転向することを報じた。

 その社としては渾身のスクープと判断したのだろうが、世論は違った。

 関連ワードが旧ツイッター(X)のトレンド入りするなどした一方、会見を待ちわびたファンからは「本人の言葉で聞きたかった」などと大きな不信感を生んだ。

 つまり、熱心なファンですら、進退の「先出し」へのニーズは感じていなかったことが示唆された。


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