日本のボクシング界が、深刻な課題と向き合うことを迫られている。試合での選手の「死亡リスク」だ。
8月には、同じ興行で別の試合に出場した2人のボクサーが試合後に相次いで命を落とした。ボクシングはグローブの上からとはいえ、ヘッドギアを着用しない頭部へのダメージにつながる顔への攻撃が認められている。競技特性による危険を孕む上に、ファンも派手な打ち合いや衝撃的なKOシーンを期待する風潮がある。
近年のトレーニング法の向上によって攻撃力がアップしたことや、「水抜き」と呼ばれる過度な減量などを背景の「危険因子」と挙げる声があり、ボクシング界も再発防止に本気で乗り出すが、リング禍を食い止める“特効薬”は見つかっていない。
繰り返される事故と対策
「ボクサーの死 根絶めざして万策を」
朝日新聞は9月5日付紙面の社説で、この問題を取り上げた。
この時期の掲載には、8月2日にライト級の浦川大将選手(帝拳)、スーパーフェザー級の神足茂利選手(M・T)がいずれも試合後に亡くなったことが影響したとみる。浦川選手は試合でTKO負けを喫し、神足選手は判定で敗れた後に意識を失い、病院へ救急搬送された。2人とも28歳の若さだった。
プロボクシングを統括する日本ボクシングコミッション(JBC)が発足した1952年以降、国内での死亡事故は約40件起きている。ただ、24年2月に穴口一輝選手(真正)が亡くなるまでの10年以上、死亡事故は起きていなかった。
これには、09年3月の日本ミニマム級王座決定戦が関係しているだろう。激闘だったこの試合では、辻昌建選手(帝拳)がKO負け直後に意識不明となって3日後に急性硬膜下血腫で死亡。勝った金光佑治選手(六島)もその後に硬膜下血腫と診断されて引退した。
当時の朝日新聞の記事(09年6月30日付)「(SPORTSクリック)ボクサーの死、根絶へ本腰 JBC、王座戦の悲劇きっかけ」では、このときの事故を受け、JBCが健康管理の強化などの対策に動きだしたことを紹介する。
