2025年12月5日(金)

勝負の分かれ目

2025年9月26日

 日本のボクシング界が、深刻な課題と向き合うことを迫られている。試合での選手の「死亡リスク」だ。

 8月には、同じ興行で別の試合に出場した2人のボクサーが試合後に相次いで命を落とした。ボクシングはグローブの上からとはいえ、ヘッドギアを着用しない頭部へのダメージにつながる顔への攻撃が認められている。競技特性による危険を孕む上に、ファンも派手な打ち合いや衝撃的なKOシーンを期待する風潮がある。

井上尚弥(左)がWBC・IBF・WBO・WBA統一スーパーバンタム級世界タイトルマッチで、ウズベキスタンのムロジョン・アフマダリエフを圧倒したが、ファンはKO勝利を求めていたところもあった(AP/アフロ)

 近年のトレーニング法の向上によって攻撃力がアップしたことや、「水抜き」と呼ばれる過度な減量などを背景の「危険因子」と挙げる声があり、ボクシング界も再発防止に本気で乗り出すが、リング禍を食い止める“特効薬”は見つかっていない。

繰り返される事故と対策

 「ボクサーの死 根絶めざして万策を」

 朝日新聞は9月5日付紙面の社説で、この問題を取り上げた。

 この時期の掲載には、8月2日にライト級の浦川大将選手(帝拳)、スーパーフェザー級の神足茂利選手(M・T)がいずれも試合後に亡くなったことが影響したとみる。浦川選手は試合でTKO負けを喫し、神足選手は判定で敗れた後に意識を失い、病院へ救急搬送された。2人とも28歳の若さだった。

 プロボクシングを統括する日本ボクシングコミッション(JBC)が発足した1952年以降、国内での死亡事故は約40件起きている。ただ、24年2月に穴口一輝選手(真正)が亡くなるまでの10年以上、死亡事故は起きていなかった。

 これには、09年3月の日本ミニマム級王座決定戦が関係しているだろう。激闘だったこの試合では、辻昌建選手(帝拳)がKO負け直後に意識不明となって3日後に急性硬膜下血腫で死亡。勝った金光佑治選手(六島)もその後に硬膜下血腫と診断されて引退した。

 当時の朝日新聞の記事(09年6月30日付)「(SPORTSクリック)ボクサーの死、根絶へ本腰 JBC、王座戦の悲劇きっかけ」では、このときの事故を受け、JBCが健康管理の強化などの対策に動きだしたことを紹介する。


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