KOシーンはわかりやすいバロメーターとなり、高度なテクニックよりも、一発で相手を倒すシーンは、ライト層なファン層にも刺さりやすい。また、近年は他のスポーツと同様にトレーニング理論に裏付けされた技術の向上が追い風となり、かつてのボクサーと同じ階級でも、パンチ力を高めやすい環境にあることが複数のメディアで指摘されている。
内容で圧倒した井上選手もKOには言及
朝日新聞の今年8月11日付記事「〈視点〉「水抜き減量・攻撃力、増すリスク ボクシング、事故対策半ば」の記事中では、JBCの安河内剛・本部事務局長も私見とした上で、「今の日本ボクシングの攻撃力はすさまじいものがある」とコメントする。一方で、執筆者である朝日新聞の塩谷耕吾記者は記事中で「人体の耐久性を超えた攻撃力を身につけたとしたら、競技の根幹が崩れる」と危険性を指摘する。
井上尚弥選手が9月14日、WBA同級暫定王者のムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)との防衛戦を3-0の判定勝ちで退けた一戦は、スピードとテクニック、フットワークを駆使した華麗なアウトボクシングを披露し、試合内容で圧倒した。米専門誌「ザ・リング」などの海外メディアも戦いぶりを絶賛した。
井上選手も「最大の強敵」と評した相手との一戦を、判定決着を視野に入れて「我慢」をテーマに戦い抜いた勝利だと強調した。
それでも、6年ぶりの判定勝利となったことで、試合後の会見詳細を報じている記事では、「KOを狙えるシーンを作れたのでは」という趣旨の質問があったことが紹介されている。
井上選手は「作ろうと思えば、作れた(KO)シーンはいくつかあったと思いますが、アフマダリエフも実力者なので。倒しにいこうと思えば、また違った展開になっていた可能性もある。今日は判定で勝つというボクシングをチョイスしてよかったのかなと思います」と応じた一方、「判定でも魅せるボクシングができた。満足はしているが、KOもボクシングの醍醐味で大事なこと」と語った。
こうしたやり取りからも、プロの興行とKOは切っても切れない関係にあるのは事実だ。
