記事は「ボクシングは頭部にダメージを与えることで成り立つ」と指摘した上で、JBCドクターの「事故ゼロは不可能に近い」という厳しいコメントも掲載する。
ボクシングでの死亡事故の原因の大半は、頭部への外的な衝撃による急性硬膜下血腫だ。一方で、過去の事例からも、試合中の異変に気づくなど、事前に命の危険を察知することは困難な状況とみられる。
防止の“特効薬”も見出せていない。ボクシング界は手をこまねくだけでなく、レフェリーが試合をストップするタイミングを早くするなどの対応を講じてきた。
しかし、再び死亡事故が看過できない事態となっている。個別の事案ではなく、あくまでボクシング界全体としてとらえた場合の背景に何があるのか。
勝つための減量とファンが期待するKOシーン
複数のメディアが取り上げるのが、「水抜き」といわれる過度な減量法だ。脱水状態をつくって体重を落とすため、硬膜下血腫のリスクが高まるとの指摘が報じられている。
ボクサーにとって、減量そのものは避けて通れない。
日本のプロ選手の主戦場となっている軽量級は、1~2キロ刻みで階級が分けられている。例えば、井上尚弥選手(大橋)が最初に4団体統一を果たしたバンタム級のリミットは53.52キロ以下で、現在のスーパーバンタム級は55.34キロ以下だ。
バンタム級の1つ下の階級は52・16キロ以下。一般的に、階級が低ければ、選手の体格やパワーも小さくなる。うまく体を絞って一つでも下の階級で闘うことができれば、優位な体格で勝負することができる。厳しい減量に耐え、計量をパスした後の食事で体重を戻せば、ウェイトという観点におけるメリットは確かにある。きつい減量を乗り越えたボクサーの勝利は、危険という視点よりも美談として取り上げられてきた。
興行面から見た影響にも焦点が当たる。朝日新聞の社説が「近年はボクシングにノックアウト勝ちを求める風潮がより強まっているように映る」と書くように、派手な打ち合いやKOシーンを期待する風潮があることは否めない。試合では勝敗数の後にKO数も紹介され、ファイターの指標にもなっている。
プロボクシングは興行であり、人気を左右する上で「話題性」という戦績以外の評価軸も存在する。選手の人気が高まれば、大きな会場での試合が実現し、試合が中継され、チケットも高額になる。選手のファイトマネーもつり上がる。プロは、ある意味で試合に勝つことはもちろん、強さ、内容でいかにファンを魅了できるかも問われる。
