羽生さんの一件は、アスリートの進退報道の在り方に大きな一石を投じることとなったが、その後も今回の角田選手のようなケースは続いている。
アスリートが自ら発信する時代のメディア
メディアとアスリートの関係は、アスリート自らがSNS上で様々な情報を発信できる時代の変遷によって様変わりしつつある。
人気の高いトップアスリートともなれば、とてつもない数のフォロワーを抱えており、自身のSNSそのものが「メディア」の役割を果たしている。実際、メディアは本人のSNSを情報源として引用、紹介しただけの「こたつ記事」をネット上に氾濫させている。
極論を言えば、自身のSNSでファンに情報を伝えることができるアスリートは、メディアを媒体する必要がないわけである。
それでも、ほぼすべてのアスリートが様々な場で記者会見を設定したり、オープンな場での取材に応じたりしている。
だからこそ、メディアに問われているのは、「取材のプロ」として、アスリートが自らのSNS発信では想像もつかないような質の高い質疑から生み出される深みのある記事だろう。
先出しスクープの中には、もちろん、そのこと自体を目的としていないケースもある。 どういうことかといえば、多様な視点でアプローチを試みる記者が、様々な関係者を取材しているプロセスの中で、副次的にニュースを探り当てるケースだ。
丹念な取材でテーマを深堀りして記事を書く記者は、速報性のあるスクープにも強い傾向があるのはこのためだ。
ただ、アスリートにとっての進退は、その後のキャリアにも影響する大きな決断となり、表明するタイミングも含めて熟考に迫られることもある。
先出し報道がアスリートの不信感を高めれば、メディアの会見や取材を受ける機会が減少し、本人のSNSが情報発信の主戦場になってしまうこともありうる。SNSを“後追い”するばかりの報道にならないためにも、メディアにはもっと慎重な判断があっていい。

